第二話
まず最初、頭を打って意識が遠のいたとき、
「もう人生は終わった……」
と思った。
その瞬間、私の目の前は真っ暗になった。もう何も見えなかったけれど、心の中ではただひたすらに「もう一度、先輩に告白したい」という思いだけが強くなっていった。
しかし、ふと気づくと、私の目の前にはまた、卒業式が始まる前の風景が広がっていた。
――あれ?
「また、卒業式前に戻ってる……?」
あれだけ痛い思いをしたのに、まるで時間が巻き戻ったようだった。
目の前には、校内の風景が広がり、私はまたあの退屈な挨拶を聞いている。
「これって一体? きっとさっきのは夢ね」
と笑いながらそう思っている間にも、式は進んでいく。
と思っていたが……。式が終わってまた同じ光景。3回目は流石に上靴ではなかったのにやはり滑って転がった。
繰り返される同じ卒業式。最初は驚いたけれど、何度目かから、少しずつその状況に慣れてきた。
そして、何度も何度も、同じ坂道を登り、また転げ落ち、また頭を打って死んで、また式の前に戻ってくる。それが、回数を重ねるごとに不思議なことに感じ始めてきた。
「もう、悪夢にも程がある」
4回目。運動靴を履き、足を滑らせないように気をつけて慎重に歩いたが、慎重すぎて遅くに到着すると先に来ていた女の子が告白をして先輩がボタンを渡していた。
……すると先輩が私をみてハッとした。私は驚いて足を踏み外してまた坂から落ちて足に頭ぶつけて死んだ。
このあたりから自分はタイムループしてるんだと自覚した。だがタイムループなんてドラマや映画の物語の中の話だろう……と思いながらもそう思うしかなかった。
5回目。
もっと他の道がないかと探してみるけれど
「こら! そこに何故入った!!!」
生活指導の怖い先生に怒られてしまう。それにびっくりしてまた坂から落ちた。
6回目。
同じクラスの浩太が
「大丈夫か?」
と声をかけてくれた。
……今までにない展開、そしてなぜここに。自分が気づかなかっただけかもしれない。
「実は」
と先輩に会いにいくためとざっくり答えた。流石に自分タイムループしてる、先輩に告白したいためにと言ったらどう思うのだろう。冷やかすに違いない。
「じゃあ俺も行くよ!」
正直クラスのお調子者の浩太。頼りない。そしてやんちゃでワル。爽やかな先輩とは反対のタイプだ。
でもなんか気合いが入ってるし……せっかく助けてくれるからと……展開に変化を求めたものの……
浩太も巻き込んで坂から落ちて死んだ。
流石に3回目で詫びた。
「いやいや、こんなもんどうにかなるさ。次こそは」
しかし彼が前のことを覚えていて何故? と思う。
「こんなこと、何回やればいいんだろう」
しかし回数を重ねるうちに、私は少しずつ、飽きてきた。ずっと同じ卒業式、同じ挨拶、同じ転倒を繰り返す。
弱音をつい吐いてしまった。しかし浩太は諦めなかった。
「どうして浩太がこんなに助けてくれるんだろう?」
そう思っても、先輩がいるから、気持ちは先輩に向いてしまう。
どんなに浩太が助けてくれても、私はただ、先輩に告白するために必死だった。
そして、10回目。
「もう、夢は9回目。そうよ、今までは夢よ。これで終わらせなきゃ」
私はそのとき、自分に言い聞かせた。今度こそ成功させなきゃ。
すると浩太が言った。
「じつは僕もタイムリープしててね」
……!!!
彼もタイムリープをやはりしていたのだ。
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