冴えない小学校教師が転生した残虐王子の能力を使って学級崩壊を企図した少女たちにYouTubeの規約ギリギリで異変をもたらす話

横島先生

第1話:椎名朱音(前編)

日常パート:




「数千年前、魔王という存在は数百年ごとに復活し、人々を恐怖に陥れていた。しかし、そのたびに勇者たちが立ち上がり――」


俺の声が虚しく教室に響く。


小学六年生の社会の授業。教科書を読み上げているのは俺だが、誰一人として聞いていない。


黒板の前に立ち、振り返る。机に並ぶ生徒たち。しかし、彼女たちはまるで俺が存在しないかのように振る舞っていた。


いつからだろう?


この教室で俺が“いないもの”として扱われるようになったのは。






復讐パート:




帰宅のため、電車に乗った。


車内は静かで、揺れるリズムに身を任せる。ふと視線を向けると、ボックス席の前の席に座る少女が目に入った。


椎名朱音しいな あかね。


20XX年2月17日生まれの11歳。老舗料亭の娘。親の教育が厳しいせいか、伝統と品格を何より重んじる。和の文化を大切にする一方で、親がその道の権威ということもあり、奥ゆかしさの裏に、伝統を振りかざす傲慢さが見え隠れする。


――なぜこんなに詳しいのか?


それは彼女が俺のクラスの生徒だからだ。


だが、彼女にとって俺は存在しない。彼女の中で、俺は「いないもの」になっている。


俺も彼女を見ようとしない。彼女も俺を見ようとしない。


この距離は、ただの偶然か、それとも運命か――。


しばらくすると、異変が起こった。


朱音の髪が、じわりと湿り始めたのだ。


最初は気のせいかと思ったが、時間が経つにつれ、その湿り気は明らかに増していく。そして、不意に彼女の口から、「お……」という短い声が漏れた。


彼女は気づいていない。いや、周囲の誰も気づいていない。


しかし、俺だけが見ていた。


朱音の髪はさらに湿り、滴るようになっていく。それと同時に、「お……お……おお……おおおお……」と、途切れがちだった声が、少しずつ大きくなっていく。


奇妙な光景だった。


それでも、誰も振り向かない。誰も、何も感じていない。


「おおおおおお……おおおおおおおおおお……」


やがて声は膨れ上がり、まるで車両全体に響き渡るかのように広がった。


異様な空間。


それでも、誰も彼女の異変に気づこうとしない。


俺は小さく咳払いをした。


「こほんっ」


その瞬間、朱音の髪は一瞬にして乾き、不気味な声はかき消された。


彼女の顔に浮かんだのは、呆然とした表情。まるで時間が止まったかのように、ぽかんと口を開けたまま固まっている。


その瞬間、俺の体がふわりと軽くなった。


朱音の顔はみるみる赤くなり、額に汗が滲む。息が荒くなり、視線が揺れる。


ちらりと、こちらを見る。


しかし、俺は目を合わせない。


朱音の目に涙が浮かんだ。


電車が駅に到着するや否や、彼女は逃げるように下車した。






対話パート:




「順一郎、あの能力は気に入ったか?」


ふいに声をかけられた。


明らかに年下の少年の声。しかし、その態度はため口どころか、どこか上から目線だった。


「まだ、何が起きているのか実感がないよ。そして、この力で何ができるのかもよくわかってない。」


僕は正直な気持ちを口にする。


少年は軽く笑った。


「まあ、始まったばかりだからな。」


淡々とした口調。けれど、その声には奇妙な確信があった。


「……この力、どう使うべきなのか、俺にはまだわからない。」


心のどこかに残る罪悪感。そして、それを振り払おうとする自分。


「ゆっくりと、それでいて慎重にいこう。」


静かに、しかし重みのある言葉だった。


「順一郎、お前はもう選んだんだろう?」


僕は、その意味を探りながら、ゆっくりと頷いた。


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