妖精との約束
星見守灯也(ほしみもとや)
妖精との約束
小さなころ、わたしは妖精と遊んだことがある。
それは夏至の前のことだった。
朝早く、白詰草の咲き乱れる裏庭で。
わたしは花草で花冠をつくる。
露の落ちた草を取り、編んでいく。
手で押さえ、くるりと回して引きしめる。
「できたー!」
わたしはその花冠を頭に飾り、くるりと舞ってみせた。
なんてすてきな花冠だろう!
そう思ったとき、声がした。
「あら、すてきね!」
それは鈴が振れたような声だった。
見ると、手より小さな女の子が浮いている。
その背中には美しい透明の羽がついていた。
「ようせいさん?」
「そうね。そう呼ばれているわ」
「わあ! すごい!」
わたしは思わず妖精をつかもうとして、手を止めた。
「わたしとおともだちになってくれる?」
「いいわよ! いっしょに遊びましょう」
そうしてわたしは妖精と遊んだ。
「またあそんでくれる?」
「そうね、あなたが望むのなら、いつまでも子供のまま遊んでいられるわ」
「ほんと!?」
「迎えにいくから、待ってるのよ」
「わかった。やくそくね!」
それから八年。
わたしは唐突にそれを思い出した。
いつまでも子供でいたい。
その時はそう思ったのだけど、ちょっと怖くなってきた。
妖精の迎えが来たら、本当に子供のままなの?
それはなんだか嫌なことのように思った。
やっぱり、妖精に来てほしくない。
そう思ったわたしはそれを伝えようとした。
でも、宛先がわからない。
わたしは図書館に行って妖精について調べた。
妖精はきれいでかわいいだけじゃない。
人間にとって不吉なものでもあるのだと、そのとき知った。
どうしよう。
妖精との約束を止める方法。
すると、ある一文が目に入った。
わたしはお父さんから
ティッシュに包み、
「妖精に困ったら鉄の釘をおいておきなさい。妖精は鉄を嫌うから」
ごめんね、妖精さん。守れない約束しちゃって。
わたしはきっと大人になる。
大人になって妖精さんのことを忘れてしまう。
それから二十年。
小さな子供が野原で走り回っている。
一人が白詰草をとって、頭に乗せた。
「ようせいさんみたいね」
「そうねえ。妖精さんと会えちゃうかも」
子供は嬉しそうに笑った。
「でも、妖精さんとお話ししても、約束はしないのよ」
妖精との約束 星見守灯也(ほしみもとや) @hoshimi_motoya
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