ありのままの感情が文章を通して、否、読み手の心に直接ぶつけられていると錯覚するほどの表現力と深く感情移入してしまう人物の心象。読み進めていくほどに、それはより重厚で濃密なものに。たとえ、読み手の脳裏に浮かぶ光景がまったくの別物であっても、この物語は寸分違わず読者の心を激しく揺さぶるに違いありません。淡い純文学の世界に浸りたい方は是非、ご一読を。
たくさんの応援コメントにもあったように大正昭和の文豪が書いたと言われても違和感のない、流麗に綴られる言葉たちと、男女の切ない恋物語。純文学が好きな人にはたまらない作品でした。
読み進めるうちに、耳の周囲をしんと静寂が包む不思議な感覚に陥りました。読み手はいつしか、主人公の過ごす部屋にいます。まるで夢現の境目に佇むように。周囲の空気すらも変える、大変美しい物語です。ぜひご一読を。
身分違いの、悲恋。この物語はしかし、そんな易しいものではありません。主人公の心が切々と訴えてくるのです。鮮やかな情景が、美しければ美しいほど残酷であると。細やかな幻想が、甘やかであればあるほど無情であると。呼吸をしていたはずなのに、読後には喘がなくてはなりませんでした。この苦しさを、どうか共有してください。
おそらく舞台は明治大正昭和の初め、もしくはそれ以前の物語でしょうか。大店、名家のお嬢様と思われる女性と、もともとは対だったと思われる金魚と、人ならざる気配の者を交えてお話は進んでいきます。深く、深く、深く。息をするのも辛くなるくらい、私は文章に入り込んでしまいました。おススメです。