初恋リトライ

安東アオ

第1話

 自動ドアが開いて足を踏み入れると、陽気な入店音と共に「いらっしゃいませー」という声が聞こえてきた。


 ほろ苦い香りがコーヒーマシンから漂っている。近所のコンビニでも、実家近くでも変わらない音と匂い。


 懐かしい、な。

 

 ふとアイツの顔が浮かんだのは、ここが思い出の場所なのと、少し前に見かけたせい。


 中学卒業と同時に付き合って、別々の高校に進学してから自然消滅した元カレ──北條蓮翔ほうじょうれんと


 待ち合わせ場所だったこともあって、早めに来てブラックコーヒー飲んでたっけ。そしたら北條も早く来るようになって、イートインスペースで一緒に過ごしてから移動してた。


 初めての彼氏だったし、緊張しっぱなしだったけど楽しかったな。うん。楽しかった。もっと素直になってたら今でも付き合ってたのかな、なんて。


 忘れられたと思っていたのに、今でもそう思ってしまうのは別れ方のせい。あれから自然消滅だけはしないと心に決めている。って、好きな人すら出来ていないんだけど。


「あま」


 気分を変えるため、滅多に飲まない微糖の缶コーヒーを買ってみた。想像していたよりも甘い。


 記念すべき二十歳のつどいの日は、まだ引きずっていると自覚した日でもあった。







 その日の夜、カラオケ店のパーティールームで開かれたクラス会。わりと仲が良かったから多くの人が集まった。もちろん北條も。


 当たり前だけど、昼間とは違って全員ラフな格好をしている。北條の服の好みは変わっていないようでシンプルだった。黒髪なのも変わっていない。


 視界に入らないようにしたくて、出来る限り遠い席に座った。そうしないと無意識に目で追ってしまいそうだったから。


「うわ、お前それは入れすぎだって。砂糖そんなに入れる奴初めて見た」

「うるせー、俺が甘党なの知ってるだろ」


 ドリンクバーコーナーに行った時だった。

 休憩スペースに座っていた、北條と片岡の会話に心臓が飛び跳ねる。


 北條がスプーンでカップの中身をぐるぐる混ぜていて、その近くには開封済みのシュガースティックがいくつか置いてあった。


 あ、ヤバ。


 気配を消していたつもりなのに、今日初めてぶつかった視線。すぐに逸らしちゃったから、北條がどんな顔しているのかは分からない。


 マシンから注がれる時間が、いつもより遅く感じる。お願いだから早く終わって。


「それならコーヒーなんて飲まなきゃいいじゃん」

「……急に飲みたくなったんだよ」


 聞くつもりはなくても聞こえてくる続き。

 同時に思い出した昔のこと。


菱井ひしいってコーヒーに何か入れてる?』

『ううん、ブラック』

『そうなんだ。俺と一緒だな』


 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 本当は苦手だったのに、私の前ではカッコつけてたってこと? ブラック以外飲んでいるの見たことないし、甘党なのも知らなかった。


 戻るために振り返ると、再び視線がぶつかった。さっきとは逆でおもいっきり逸らされる。しかも、明らかに恥ずかしがっている表情で。


 やっぱり忘れられそうにない。まだ好き。

 思い出補正がかかっているかもしれないけど、それでも。


 今、彼女いる?

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