燻り蟠る日々を送る主人公の生き様と彼に関わる人物を描いた物語です。
私の面白く思った作中の人物や、出来事、行動などがことごとく実際に存在します。
本当です。
作者の秋谷さんが答えられていました。
その恐ろしい事実にまず慄きます。
蹉跌人生のヴンダーカンマーです。
万国ビックリショーです。
ことほど左様に。
キャラクターとそれらの会話は多くの小説から群を抜いて面白いです。
もうね。ストーリーとか別に構わないじゃないですか。
逆に聞きたいですね。
会話とキャラクター以外になにが必要だと言うのでしょうかッ?
……もちろん必要ですよ。
そんなこと知ってますよ。
じゃあ、そんなのは別の小説から摂取したら良いのですよ。
兎角ね。
この作品を読むとなると大変です。
虚構と幻想と実在で組み上げられたヤバイ世界が垣間見えますからね。
文字的薬物ですからね。
ましてや、この作品世界に嵌ってしまうとなりますと、生半可な会話のやりとりでは満足出来なくなります。
そうなんですよ。本当に。
ほんとうかどうか。
読んで確かめたらいかがですか?
タイトルからして、情緒を揺さぶられそうな物語。
主人公の実生活と豊かな内面世界のギャップ、そして新しい出会いの中で手探りで何かを掴もうとする逞しさが垣間見えたりなど、とても魅力的なストーリーです。
でもこれは間違いなく、成長譚だと思います。
恋に落ちて、彼は世界と対峙する力を得た!
内面世界がいかに豊かで素晴らしくあろうともやはり外の世界からの刺激と、解放がどれだけ大切か、痛感させてくれます。
今、人生のトンネルにいる方、ああこんなことあったよなあとかつての自分と重ね合わせる方。
男性、女性。
お若い方、歳を重ねた方。
読んでいても、立場によっていろんな感情が湧き上がってくるのではないでしょうか。
主人公に是非や善悪は求めないで、ご自分の炙り出された感情や感想をぜひ味わって欲しい作品です。
そういう意味でも、こちらは面白く、同時に悪趣味なまでに怖いお話でもありましょう。
その後、どうなったのか。
想像すると、やはりざらりとします。
それもまた、人生の味わい深さ。
ぜひご一読ください!
日本純文学の系譜を感じさせる、どこか懐かしくも、その場のざらついた空気感まで感じられる精緻な描写に魅了されます。
深い教養に裏打ちされた文学参照や、美術方面の造詣の深さも感じられ、物語を重層的にしているほか、夢の描写がしばしば挿入されることから、幻想文学のような趣もあります。
小粋でユーモアの効いた比喩も小気味が良く、レビュー執筆段階で第12話までの公開となっていますが、今後どのような展開をしていくのか、目が離せません。
そして最後にもうひとつ。
本作のように、主人公が孤独や社会との断絶を感じながらも、決してそれを盾にしない物語というのは、その誠実さ故に「わかる!」といった表立った共感は得にくいのかもしれません。
でも、届くべき人には確かに響いていると思います。
そして、声にならない声を届けることこそ、文学の重要な役割のひとつであるとも。
私もまた共鳴させていただいた一人であることをお伝えして、レビューを締めさせていただきます。