とち狂って読みに来たのかい? あは!
夕日ゆうや
第1話 文字列
俺は寒い手袋に手を通し、妹のパンツを剥ぐと、そのまま口に運んだ。
うまい。
この濃厚な味わいは妹でなければ味わうことができない。
「あ。お兄ちゃん、またあたしのパンツ食べている!?」
「まあいいじゃないか」
「ちゃんとビタミンも摂取してね!」
「ああ」
立ち上がると、俺は目の前の壁をプラズマで撃ち抜く。
「じゃあ、いっちょ世界を救いますか」
ネコのピーちゃんにそう問いかけると、俺は真っ直ぐに住宅街を駆け抜けていく。
「金縛くん?」
「かおりか? どうした?」
隣の家に住む、幼馴染が顔を見せる。
「私も一緒に行く」
「俺は何も言っていないぞ?」
「だって金縛くん、一人でまた世界を救うつもりでしょ?」
「ああ。悪いかよ!」
俺は出がらしみたいな声を上げる。
ちなみに慈悲はない。
繰り返す。
自費出版はない。
「イヤダイヤダ! 私も金縛くんみたいに、富と名声を集めるんだ!!」
「勝手にしろ。行くぞ!」
「本当!? 愛しているぅ!!」
「安い愛だな!」
「へへへ」
「褒めていないからな!」
面妖な面持ちで麦をくわえる幼馴染。
星々の眠る青空の下、俺たちは飛翔している。
地上ではアルマジロ星人がメロメロビームで地球人をメロン食べたい病にしている。
「このままでは世界中のメロンがなくなってしまう!」
「させない! 桜吹雪」
幼馴染の手のひらから放たれた桜吹雪がアルマジロ星人を包み込む。
刹那。
花びらに変わるアルマジロ星人。
「なにをした?」
俺は幼馴染を問いただす。
酔狂でヒーローをやっているわけじゃない。
公務員なのだ。
仕方ない。
「秘密だよ〜」
「秘密ならしょうがない」
俺は納得すると、アロンダイトを掲げる。
そしてアルマジロ星人を片っ端から茶菓子に変えていく。
コーヒー豆みたいな怪人がこちょこちょビームを炸裂。
幼馴染はその膨大なエネルギーを浴びて笑い転げる。
「くっ。新手か!」
俺は怪人に向けてオロロびーむを放つ。
が弾き返される。
「なに!?」
アロンダイトを振るう。
それでも切れない怪人。
「なんだ! こいつ!?」
むにゅりと確かな弾力で押し返す怪人。
「むにゅり怪人だ!」
モブが叫ぶ。
「フラワーぱーくへようこそ!」
むにゅり怪人は唐突に、だが確かにそう呟く。
「何を言っているんだ!」
俺は戸惑いの色をみせる。
ちなみに黄土色らしい。
俺は新たに顕現したエクスカリバーとアロンダイトの柄を合体。
うちに秘めた最強のスキル、剣士を発動させる。
時空が歪み、世界がまるっと変わる。
「あぎゃぎゃ!」
俺が叫ぶと怪人Xがあらわれ、空気中の水分を切り裂く。
「あぎゃ?」
むにゅり怪人が溶け出していく。
「本当の敵はまだいるわよ!」
幼馴染が叫ぶと、俺はエクスカリバーとアロンダイトの合体を解く。
「あー。びっくりした」
額の汗を拭うと街を見渡す。
この街は平和になった。
でも俺の目的は世界平和だ。
「やるぞ!」
そう言ってまたも地球を飛翔する。
あべこべになった幼馴染みが身体を張って空を飛ぶ。
いいちこを飲みながら、現れたのは転校生。
「わちのとっておきの料理だわさ」
転校生はそう言って弁当箱を差し出す。
俺はにべもなく受け取る。
料理は偉大だ。
この世の果てにある最高の頂きである。
それが料理。
全ての万人を喜ばせる、最強の言葉。
その響きである。
世界の半分を占めるものである。
「して、その料理とは!?」
「マーボー豆腐よ!」
「な、弁当箱に汁物だと!?」
「大丈夫。漏れないように、片栗粉で固形にしてあるから!」
「もはや、別料理!!」
俺はそんなものをこれから食わされるのか。
前言撤回。
紫色のしたそれは、悪魔の食べ物。
最凶の間違いであった。
食べものではない、何かを口に運ぶ。
ムチンが溢れるのがよく分かる。
キリキリと胃が痛む。
世界が反転する。
そんな気がした。
棚からぼた餅とはこういうことである。
俺はめまいを覚えて、路上に立つ電信柱に身を預ける。
「あは☆ 私の料理でまた一人、倒せた」
「あんた、こいつに何をしたのよ」
幼馴染みが目の前にでる。
「私は真央四天王が一人、ルル・ペロ・アンタコロースだよ」
「知らないわよ。そんな名前」
幼馴染みは身体から炎を出し、発射する。
火球の群が転校生に向かっていく。
「俺は?」
回復した俺は困惑する。
まるで蚊帳の外である。
犬も歩けば棒に当たるとはよく言ったものだ。
「ははは、私は回避もできるんだよ」
転校生はそう言って、左右に身体を振る。
そして全ての火球を回避する。
「なんだと!」
俺は怒髪天を衝く。
青ざめる転校生。
「そして、わたしは火球を放つ」
幼馴染みは顔色を変えて火球を放つ。
弓矢のように発射された火球が大空のもと、降り注ぐ。
隕石群に似た、火球が転校生にぶつかっていく。
「ああ。やっちまったな」
俺はそう言って、平行世界からいにしえの古代魔術を呼び寄せる。
こことは違う別の何か。
それが世界を平伏させる。
狂ったモンキーが、踊り出す。
幼馴染みの放った火球をすべてかわした転校生だが、この攻撃はよけられまい。
俺の力は最悪だろう。
世界を変える力なのだから――。
平行世界から持ち出した魔導書のダージリンが火を噴く。
紫の炎が燃え広がり、世界を塗り固めていく。
溶けた大地。
壊れた青空。
零れ落ちる海。
俺は世界を変えた。
……。
アッシュは世界の脅威から全て救った。
俺が怪人と戦っているなか、アッシュは世界を滅ぼす大型隕石を破壊し、その進路を変えた。
隕石の一部は地球への進路をかわし、地球は救われた。
そして、隕石の一部は大気圏で燃え尽きることが分かった。
「シー!!」
俺はそう叫ぶと、アッシュはにこりと笑む。
世界を救ったのはアッシュだった。
アッシュはヒーローになった。
英雄だ。
栄養だ。
栄誉だ。
アッシュのかっこよさは世界いちっ!?
俺はだからかっこ悪い。
接続詞など、もはや語るに落ちる。
言語世界は滅んだ。
日本語という概念世界、そのものが壊れたのだ。
だから、ここに記した言葉はただの陳腐な象形にすぎない。
なんの意味ももたない文字列の集まりだ。
できた娘がいた。
やはり子どもはいい。
将来への夢がある。
全てを狂わせたのは愛おしさだった。
この文章にはなんの意味もない。
ただの文字列だ。
とち狂って読みに来たのかい? あは! 夕日ゆうや @PT03wing
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