【KAC20253】宙返りガエルとバク転王子

Yoshi

第1話

「この奥が、妖精の間か……」

「左様でございます、バク転王子様」


 俺の名はバク転王子。その名の通り、バク転の名人だ。

 これまで数々の舞踏会で華麗なバク転を披露してきた。だが最近、行き詰まりを感じている。技術は極めたはずだが、まだ何かが足りない。そんな時に聞いたのが「妖精の間」の伝説だった。


「妖精の間の言い伝えをもう一度聞かせてくれ」

「もちろんです。妖精の間に来た者には、妖精がその者の持つ可能性を示してくれるそうです」


 その言葉に、俺の期待は膨らむ。バク転には、まだ可能性があるはず。


「妖精の間には、案内人である私は入ることができません。バク転王子様一人でお行き下さい」

「わかった。案内ご苦労だった」


 新たな可能性を知るために、俺は奥へと歩みを進めた。

 そこににあったのは、何もない石造りの部屋。壁には不思議な紋様が彫られている。何だか不思議な雰囲気に包まれている。


『君が、面会者だね』


 どこからか高い声が響いた。


「……妖精か?」

『正解。さて、本題に入ろうか。君は僕に何を聞きたいんだい?』


 そんなの決まっている。


「俺はバク転の名人だ。だが、まだバク転には秘められた可能性があるはず。俺に、その可能性を教えてくれ」


 妖精はしばらく沈黙し、やがて口を開いた。


『随分と偉そうな言い方だな』

「で、教えられるのか?」

『もちろんだよ。妖精に不可能なんてほとんどない』


 妖精はニヤリと笑った。


『そうだな……。これが一番手っ取り早いかな』

「さぁ、早く教えてくれ」

『じゃあ……カエルになろっか』


 そうか、カエルになるのか……え?カエル?


「待て、どういう意味だ」

『君、バク転王子って呼ばれてたんだっけ?じゃあ、カエルになったら……そうだな、“宙返りガエル”って名前がいいかな』


「待て待て待て!俺はカエルになんてなりたくない!」

『安心していいよ。君がカエルになったら、人々はバク転王子のことなんて忘れちゃうから。他人の目を気にせず修行できるね!』


 そうじゃない。そうじゃないんだよ。この妖精、人の話を聞かない。


「違うんだよ!そもそもカエルは嫌なんだよ!」


 だが妖精はにっこりと笑い、呪文を唱え始めた。


『アバラ・ヤワラカメ・リョーセールイ!』

「やめろ!やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」


◇◇◇


 こうして、俺はバク転王子改め宙返りガエルになってしまった。

 あの妖精――いや、悪魔のせいで。


 人間に戻るための旅は、今始まったばかりだ……。




To Be Continued...?

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