ユメセカイ(KAC2025参加作品)
伊南
第1話
……現世から少し外れた、夢境の世界。
小さな体を縮こませているヒヨコを前に、カンナは腕を組んで仁王立ちしていた。
「話は判った。ライネも人の幸福感を集めないと存在できないもんね。仕方ない」
「判ってくれるか、カンナ」
カンナの言葉を聞き、僅かに顔を動かしてヒヨコ──ライネはホッと息をつく。
「……ところであのニンゲン、大丈夫だったか? 恐怖感の中で夢が解けてしまったので少し心配でな」
「それは大丈夫。あの後ケーキを食べてご満悦だったし、夢の話を楽しそうにしてたから恐怖感で終わってはいなさそう」
「そうか」
小さく笑うカンナにライネも安心したように声をもらした。
カンナはある出来事を境に、見えないものを見たり感じたり出来る体質になっている。ヒヨコ姿のライネと出会ったのもその体質が一因だ。
ライネはいわゆる「妖精」の部類に入る。
妖精は人の見えない世界に存在し、そこからほんの少しだけ人に触れて存在を保つ。保ち方は妖精それぞれで違うが、ライネは人の幸福感を生み出し、それを感じる事で存在を保っていた。
「……けぇきとはあれか、あの甘い菓子の事か?」
不意に上から降ってきた低い声にカンナは横の木を見上げる。そこには藤黄色の長髪を横で結んだ、着流し姿の男が器用に枝の上で横になってカンナ達を見下ろしていた。
「いたの、キライ」
「うむ。昼寝をしていたら下で詰問が始まったからの」
キライと呼ばれた男は体を起こし、胡座をかいてニヤリと笑みを浮かべる。一方、カンナは苦笑いしながら右手を腰に当てキライの方へ体を向けた。
「昼も夜もないじゃないの、この世界」
「概念がないからこそ、思った時がその時になる」
「あらそう、だったら昼寝の邪魔して悪かったわね」
返ってきた言葉にカンナは謝罪を口にする。
カンナが今の体質になったのはこのキライが一枚噛んでいた。それで助かった部分の方が多いため、カンナはキライに感謝していたが。
カンナはニヤニヤ笑っているキライへ改めて視線を向けた。
「……お詫びはショートケーキで良い?」
「うむ。それに合うお茶も所望するぞ」
こちらの提案に対し、追加要望を重ねてきたキライにカンナは「はいはい」と言葉を返して小さく笑った。
ユメセカイ(KAC2025参加作品) 伊南 @inan-hawk
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