人生下振れ予報〜ときどき天使〜

川瀬 皐月

◆羽麦ミナトの下振れ人生

さて、みなさん人生というものは時に上振れ、時に下振れ、山あり谷あり、楽あれば苦ありといったものだろう。

個人差は多少あれど大なり小なり波形をつくり進んでいくものだと俺は思っている。まぁ生まれた環境や育ってきた環境、それこそ周囲の人がどのような人なのか外的要因によってその波形が歪に曲がったり、右肩上がりなんてこともあるのかもしれないが、それでも全体を俯瞰したら波形に落ち着くだろうと考えている。


ここで、なぜこのようなことを俺が日頃考えているのか、それは俺の人生がこの波形からは逸れている所謂例外なのではないかと思うからだ。


羽麦ミナトの人生は下振れている。

生まれたのはとんでもない台風が日本に上陸した8月のその日で、暴風雨が吹き荒れるなか粗末な段ボールにうっすい生地のタオルに包まれて施設の前に放置されていたらしい。

らしい、というのもこの話は小学校入学を控えた日に養護施設「羽麦園(はむぎえん)」の園長せんせいが教えてくれた話だから。まるで捨てられた犬か猫だなぁなんて子供らしくない頭で考えるようになったのはしばらくしてから。

そうそう、俺の苗字もこの施設の名前からとってて響きが好きで割と気に入ってる。

とまぁここまで聞いてこの施設で育ててもらったことは下振れじゃないだろって思うかもしれない。

だがまぁ待ってくれ。

この施設はどうやら人好きの園長せんせいの慈悲の心のためか、身寄りのない子どもで溢れかえっていた。そう、子どもの数に対して圧倒的に職員も資金も何もかもが足りてなかったのだ。経営はとっくに破綻していて、職員の心の余裕なんて物もとっくに失われていて___


色々されたがまぁ、不遇も不遇。


小さな部屋に押し込められた子どもたちに渡される食事は日に一食。同室の子どもたちで1人分あるかどうかという量を奪い合う日々。

部屋の中で最年少だった俺はことごとくその争いに負けていた。なんと非力。

里親が見つかっただとか、両親が経済的に自立したから迎えにきただとか、自立できる年齢になっただとか、なんやかんやあって同室の子どもたちは1人また1人と施設を出て行って破綻した施設で暮らす子どもがだいぶ減ったとき、園長せんせいが亡くなった。

俺が15になった8月の暑い日だった。


そもそも経営が破綻していた施設だったから、園長せんせいが亡くなったことで施設はあっという間に潰れて施設にいた子どもたちはそれぞれ他の施設に移ったり、里親に引き取られたりしていった。

かく云う俺も別の施設に移ることになった。

前の施設で一緒だった子どもたちは1人もいない全く新しい環境。期待と不安の50-50___


果たして、やはり下振れた。


荒れに荒れた施設だった。中学生の俺だったから耐えられた。同室のチビたちだったら絶対に耐えられなかったかもななんて遠くを見つめて考えてみたりして軽く現実逃避。やってられない本当に。

そんな中でもなんとかかんとか受験勉強を頑張って、給付型の奨学金と奨学金とは名ばかりの借金を背負いつつなんとか高校に進学。下宿させてもらえるバイト先をどうにか見つけて高校進学を期に施設を脱出。そして現在、学校、バイト、ときどき遊びと言った割と平凡な日常を送れるようになってきたところだ。


とまぁここまで人生の大きな下振れについて長々と話してきたが、実は小さな下振れ、いや不運と言った方が適切か___が日々続いている。


今朝も目覚ましのアラームはなぜか鳴らず(故障かと修理に持ち込んだのはつい先日のことだ)軽く遅刻が確定したし、通学途中の花屋の前では軒先の花壇に水をやるおばちゃんのホースが暴発して頭から盛大に水を被ったし、校門を通過してすぐにグラウンドから飛んできたサッカーボールが二の腕に直撃(割と痛かった)、散々である。


————————————


「ミナト、君ほんっとーに運悪いっていうか、ツイてないよなぁ」


机に突っ伏した俺のつむじを中身が少し減ったペットボトルでグリグリ押し込みながら立石マコトが笑う


「流石にそろそろお祓いいっとけ〜」


机に腰掛けた桜木ユウセイがマコトに続く


「マコト、ユウセイ、お前ら腕の良い祈祷師知らね????」




今日の不運は中々しんどかったと教室に入って、いの一番に友人2人のもとへ駆け寄った俺は何故が定位置からズレていた椅子に盛大に足を引っ掛けて転んだ。それはもう盛大に。


ガシャンッと鳴り響いた音に一瞬静まった教室も、転倒した主が俺であることを確認すると、またガヤガヤと騒がしさを取り戻していった。

いじめられているとかそう云う話ではない。

入学当初はそれはもう心配されまくったのだが、毎日のように何かをやらかす俺に慣れてしまったらしい。面目ない。


倒した椅子をもとの位置に戻して、痛む膝をさすりながら2人のいる自身の席まで向かった。

そして話は冒頭のやり取りに戻る。


「祈祷師ねぇ……腕の良いっていうのとはちょっと違うかもしれないけど、隣町の神社にめっちゃ有名な神主さんがいるってよ」

「マコト、それアレだろ未来占いがなんとかってやつ」


マコトの言う神主さんとやらを俺は知らないがユウセイはどうやら知っているらしい。

マコトに続くように話を続けていた。


「ユウセイはそれ知ってんの?」

「好きな人との未来を見るとか、大学受験合格の未来を教えてくれるとか、眉唾もんばっかって聞くけどな」

「ふーん、そうなんだ」


あいにく、好きな人も大学受験をする予定もない俺には遠く関係のない話だとまた机に突っ伏す。


「神社といえばさ、ここの高校の裏山あるだろ?」


未来占いの神主の話はそんなに広がらないと思ったのか、ユウセイが話題を変えにかかったようだ。

次はどんな話が始まるのかと顔は伏せたまま耳を傾ける


「オバケ山……だっけ?」

「んー、まぁ大人たちはオバケ山に行ったら食べられるだとか言って子どもを脅かしてるけど、実際、山自体は何の曰くもない普通の山らしいよ」

「ふーん、で?ユウセイが言いたいのはオバケ山のことじゃないってこと?」

「そう!実はさ、裏山のてっぺん近く少しだけ整備された山道の先にいくつかの鳥居とその奥に祠があるんだって!」

「へー、知らないや、それどこ情報?」

「うちのじいちゃん!あとは探検好きの写真部の先輩が実際に見たらしい」


ユウセイとマコトの会話を聞きながら、そう言えばユウセイの所属する写真部が開催する写真展は所謂綺麗な写真というより、そこどこだよ!っと突っ込んでしまうような奇怪な写真が多かったなと思い返す。多分それがその先輩の作品なんだろう。危ないところに足を踏み入れてなきゃ良いなその先輩。


「で、そこに行った先輩が言うにはあそこは霊的な何かがいる気配がした!ってさ」

「あー、ホラーかぁパスで」

「まぁまぁ聞けって」


自他ともに認める怖がりのマコトがホラーの気配を察知したらしい。これ以上は聞くまいとするマコトをユウセイが宥めている。


「じいちゃんが言うにはあそこは古くからある神社で、良い神様がいるってんだよ!」

「幽霊じゃなくて?」

「じいちゃんの言を信じるなら神様だな」


「でさ!ミナト!」


話半分で聞いていた俺の肩を強く掴んでユウセイが揺さぶる。ちょっと痛い。やめてくれ。


「なに」

「隣町の神社の占い神主じゃなくてさ、古い神社の神様にお願いすればその不運も止まるんじゃない?って思うんよ!」


嬉々とした表情で語るユウセイと若干引き気味のマコトの顔を見てなんと言うべきか逡巡する。


「ん、じゃあ行く?」

「えぇ……」「行こう!」


この下振れ人生がどうにかなるなら神様でもなんでも縋りたい、ホラー耐性はマコトと同様にゼロに等しいが、まあ神様ならホラーとは別だろうと言うことで今回はユウセイの案に乗ることにした。


かなり及び腰のマコトには申し訳ないが、友人として道連れにしたいと思うのは俺の性格ゆえかそれとも。


「マコト、今回はユウセイの案に乗りたいんだけどもちろん一緒に??」

「えぇ……僕ホラーほんと駄目なんだけど」

「俺も駄目だよ……でもさぁ流石にそろそろ身の危険を感じる下振れ方してるしさぁ……頼むって」


高校の入学式当日もさまざまな不運に見舞われて、式典に間に合わなかった俺にドンマイと最初に声をかけてきたのはマコトだった。

ぐしょぐしょに濡れた俺の髪をみるなりタオルを持って飛んできたのはユウセイで、中学時代陸上部だった名残りでいつもスポーツタオルを持ち歩いていたとかなんとか。結局高校では写真部に入ってるけど。


この2人、特にマコトと一緒にいるときは不運指数が下がるというか、少しだけ不運が和らぐような気がするため俺目線では多少の打算がありつつそれでも順当に仲を深めて今ではお馴染みの3人組になっている。


どこに行くにも何をするにも一緒と言った具合で、幼少期からの幼馴染と言われても納得されるほどの仲の良さである。この2人との縁は俺の人生の中でも唯一でかなりの上振れだと思っている。2人に感謝。


話が少しそれたが、だからというか今回の若干ホラー感のあるお願いにもマコトが頷くのにそう時間はかからなかった。

ほんとうにいい友人である。




————————————


「なんでこんな暗い時間なのさぁ……」


裏山を少し上り、山道が見えてきたあたりでさらに上の鳥居を照らしながら懐中電灯を持つ手を震わせて細い声でマコトが嘆いた。


「本当にごめん……」

「ミナトが悪いわけじゃないでしょ」


終業後に一旦各々家に帰り、山道は薄暗いということで懐中電灯を取って再集合と言ったのはユウセイだった。


2人と別れた後に、やはりというか不運は続き、いつも通る道で事故があったため遠回りを余儀なくされ、普段通らない道すがら水溜りを通過したトラックに泥水を盛大に跳ね上げられてせっかく乾かした制服は泥水によってより汚れてしまった。

下宿先についてからは急遽入った予約に対応して欲しいと頼まれ20分ほどロスした上に、裏山に向かう道中でまた盛大にコケて懐中電灯を破壊してしまった。

仕方がないから少し先のコンビニで新しい懐中電灯を購入した。


まぁいくつかは自分自身の不甲斐なさというか対応力の問題だった気もするが、いつも通りの不運に見舞われたことで到着が遅れ、日の落ちたこの時間になってしまったと言うわけだ。


「それにしても、本当に雰囲気あるというか……正直怖いな……」

「ミナトも怖がりだもんなあ、早めに祠のとこ行ってお願いして帰るか」


ユウセイを先頭に各々懐中電灯で足元を照らしながら慎重に石階段を上る。

真っ暗な森の中、木々が遠くを見通せない程に茂っておりその中にポツンとある鳥居と祠だけの神社はやはり少し異質で恐ろしかった。


風によって木々が騒めくだけでもビクリと肩が揺れるのは仕方がないことだろう。目の前では少し下にあるマコトの頭も同じように怯えを見せている。


「ついた」


案外短かった鳥居の道を進んだ先でユウセイがこちらを振り返る。


ユウセイに続いてマコト、そして俺の順番で祠の前に立ちこじんまりとしたその祠に俺の持っていた懐中電灯の明かりを当てようと腕を動かしたその時____






バチッ!






電気回線がショートするような音と共に俺の手にある懐中電灯の明かりと、周囲を照らしていた2人の明かりも全てが同時に消えた。


「は……」


誰ともなく息を詰めた声が聞こえる。


「ちょ……マコト!ユウセイ!」


まさかの異常事態にパニックに陥った俺は2人の名前を呼びながら、先程まで2人がいたあたりの宙空を手で掴もうとする。

つい一瞬前までそこに2人はいたのだから、この手に触れるのは2人の体温のはずだ。

そのはずだった。


カサリ


その手に触れたのはザラザラとした和紙のようなもの。温度なんてない無機質な感触に怖気が走った。


慌ててスマホを取り出し、ライトをつける。

持参した懐中電灯より照度は劣るもののこの周囲だけを照らすには十分な明かり。


「は……?」


見えた景色に愕然とした。


先ほどまでいた祠の前ではない。何もない空間に1人佇んでいるのだ。2人の姿はもちろん見えない。その上自身の手にはお札のような何かが握られていて____


「も、もしかしなくても……これヤバい……?」



『ギュ……』


何処からか、異音が響いた。


『ギュルギュルギュルギュルッッ』


異音の正体はすぐに明らかになった。

俺の視線の先、ほんの数メートルの位置になにかドロドロとした黒く蠢く物体が地面から生えたのだ。

真っ暗な空間のはずなのにその物体の黒は形を捉えるのが容易なほどはっきりと見えていて、気持ちの悪い音を鳴らしながら常にカタチを変えている。本当に気持ちが悪い。


足が地面に縫い付けられたようだ。

1ミリも動かない。


『ギュルギュルギュルギュルギュルッッギュ……』


黒い物体がその触手のようなものをこちらに伸ばしてくる。


絶対に逃げなきゃいけない。


死ぬ。



頭では理解しているのにこのカラダはもう指先一つだって動かせない。


眼前に迫る触手をただ見ていることしかできない。





死ぬ




死ぬ




死ぬ



こんなところで死ぬのか。

俺の下振れまくった人生はこんな奇妙なカタチで終わるのか。



嫌だ




嫌だ




いやだ




いやだ……




「しにたくない……」




声帯が震えた。





そのとき


眼前迫る触手と俺の間の空間、その宙空がぐにゃりと歪み出す。


にゅっ


何もないその空間から黒い触手に向かって白い腕が現れた。


黒いバケモンと白いバケモンの対面。


決着は一瞬だった。


白い腕は黒い触手に向かってその手のひらを大きく広げ、そして握りつぶした。

それ以外に形容できない。本当になんてことないように片腕で握りつぶしたのだ。


黒い触手が握り潰されると同時に黒い物体はボロボロと崩れ落ち、そして消滅した。


一瞬の出来事に声を出す隙も無い。


ただ呆然と目の前の歪みと腕を見ているとその歪みがどんどん大きくなっていく。


ひとひとり分ほどの大きさになった歪みから、白い服を纏い、頭上に神々しい輪っかを浮かばせた有体に言うなら「天使」だろうか__が飛び出した。


天使(仮称)は黒い物体があった場所に目を向け、すぐ逸らすとこちらに向き直る。


その顔はどこか見覚えのある、いや俺自身の顔と瓜二つであった。


「やっっっと!!見つけましたよ!!!!!!」


耳を劈くような大声でそう叫ぶと天使はその長細い腕を俺の背中に回した。

とんでもない力で抱きしめられていると分かったのは一瞬のフリーズの後だった。



———————————




「見て下さい!私、あなたのお顔を真似っこしてるんです!!お揃いなんですよ〜!」

「はぁ……」


あの後、天使に抱きしめられた衝撃に目を瞑り、再び目を開くと高校の校門前にいた。

テレポートというやつだろうか。

人智を超えたナニカであることは間違いないんだろう。


天使は先ほどの事など忘れたかのような能天気な顔をして(その顔はよく見知った己の顔なのだけども)、俺の周囲をふよふよと浮遊しながら何やらずっと喋りかけてきている。


「そ、そうだ!マコトとユウセイを知らないか?!一緒にあの祠まで行って……途中から姿が見えないんだ!もしかしたらまだあの場所にいるのかも……!」


怒涛の展開に止まっていた思考が、己の身の安全を感じると共に動き出した。

2人の安否の心配が湧き上がり、目の前に浮かぶ天使に向かって焦った声で問いかけた。


「ミナト、ねぇミナト、そんなことより私の話を聞いてください!私ずっとあなたを探しいていたんです!」

「話なら後で聞く!今は2人の安否が気になるんだ!なんでも良いから何か知ってたら教えてくれ!!」


相変わらずの態度の天使にさらに詰め寄った。


「おや、その人間のことはよく存じませんが、あちらに見えるのがそれなのでは?」

「え?」


天使が指差す後方を振り向く。


「ミナト〜!!!!!」

「ちょっと、ユウセイ速いって!!!」


15メートルほど後方、裏山の方角から2人が走ってくる。その手にもつ懐中電灯には明かりが灯っていて特に怪我をしているような雰囲気もないことに胸を撫で下ろす。


「なぁ天使、お前がアイツらを助けてくれたのか?」

「?なぜ。私はミナトだけが大切で大好きで、ミナトだけを助ける専任天使ですよ」

「専任天使……?」


聞き慣れないワードがでてきた。詳しく聞こうかと思ったがすぐそこまで2人が来ているため一旦置いておくことにする。


「ミナト!大丈夫だったか?!」

「祠の前にミナトが立ったと思ったらライトが消えて、真っ暗になったことでパニックになっちゃったんだよ!それで、気付いたら僕ら2人で裏山の麓にいて……!」

「そうそう、ミナトだけがいなくて本当に焦った!!」

「ミナトも下りてきてたんだね、良かったよ」


どうやら2人はあの奇妙な空間も気持ちの悪い物体にも出会ってないようだ。その上、俺の横に浮遊する天使に対して何も言わないところを見るにどうやら2人に天使は見えていないらしい。


「あ、あぁ俺も2人が急にいなくなったから焦ったよ。2人とも無事で良かった」

「やっぱり、神様じゃなくてオバケがいたのかな……ミナト、ユウセイ、僕もう絶対行かないからね!!」

「流石にちょっと気味が悪いよな。変なところに誘って悪かったよ」

「ユウセイは俺を思って誘ってくれたんだろ。っても俺ももうあそこには行きたくないわ」


あの裏山の神社にはもう近付かないと3人で決意を固めて、高校を後にした。

もう、あんな体験するのはこりごりだ。


—————————


と、まぁ家路にも天使はずっと引っ付いていた。

下宿先の玄関をスルっと通り抜けて俺の部屋までついてくる始末だ。


「ミナト!ミナト!私のミナト!」

「一旦落ち着いてくれよ、あんたは一体何者なんだ。専任天使ってなに。全部聞くから余すことなく話してくれ」


座布団に座る俺の頭上をくるくると回りながら騒がしい天使。

その腕を引っ張って対面に座らせ、全部話せと促す。


「えぇ!えぇ!!沢山お話ししましょう!私、ミナトと話したいことが山ほどあるんですよ!」


俺の手を両手で持ち上げてにっこりと笑って、話す天使は本当に心から嬉しいといった風だった。おもちゃをやっと買ってもらえた幼い子どもみたいだと思ったのは内緒だ。



———————————


天使の話は荒唐無稽といった言葉がピッタリなんじゃないかと思える話だった。

だが、目の前にいる人智を超えたナニカの存在を知覚してしまっている己に何を否定することが出来るのかと言った具合で受け止めることにした。


曰く、天使たちは天上の世界で惹かれる魂を見つけるまではふよふよと漂うだけの光の卵という存在らしい。


曰く、心惹かれる魂を見つけると、光の卵から天使が生まれその魂を抱え護りながら地上へ降り立つのだとか。これをその魂の持ち主の専任天使とし、その一生を見守るのだとか。


曰く、この天使は俺の魂を地上に降りる道中で落としてしまったのだとか。


曰く、専任天使がいなかったために俺に下振れ人生の大不運がついてまわっていたのだとか。


専任天使はその魂の不運を適度に払い除け、幸福をを呼び込み、いざという時はささやかに守る存在らしい。イメージとしては守護霊とか言われるものかもしれない。


俺の下振れ人生が、この天使が俺の魂を見失っていたせいなのだとしたら。


いま、俺という存在を見つけたのなら。


もしかすると、もしかするのか。



——————————



今、俺の頭上にはどこかネジが抜けた天使がいる。

こいつが現れてから人並みの下振れや不運のみでなんとか日々を送れている。


「ミナト!!あれがアナタの好物ですか!!私も食べてみたいです!」

「ミナト!!!あそこにネコがいますよ!!少し見ていきませんか!私、ネコってテレビの中でしか見たことないんです!」

「ミナト!ミナト!!聞いてください!」


少し、いやだいぶ五月蝿い同居人が増えたことで必要のない苦労をすることも増えた気がするが、なかなかどうして楽しい人生になった。


俺の下振れ人生の予報はこの騒がしい天使のおかげでひとときの晴れ間となったのだ。

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