妖精は冴えない顔でノックする

白菊

コンコンコン

 2022年が始まってひと月が経った。時計は0時を過ぎ、2時20分。2月2日である。

 男はアパートの一室で期待していた。2月2日の深夜2時22分、特別な者のもとに妖精がやってくるという言い伝えのためである。なんだってそんな日時なのか? 妖精は2という数字が好きなのだろう。男にとってそんなことはどうでもよかった。なんでもいいから、一度、妖精を見てみたかった。きっと美しい女であるのに違いない。

 鼓動を高鳴らせていると、玄関扉が3度叩かれた。瞬時に時計を見る。2時22分である。男は玄関へ走った。ドアを開ける。

 「どうも」

 妖精と呼ぶにはあんまりに普通な姿であった。25歳の男性だと説明されたほうがずっと納得できる。

 「妖精?……」

 相手はかすかに首を傾げた。

 「まあいい、入ってくれ。こんなときにやってくるのは妖精に違いないんだから」


 テーブルを挟んでフローリングに座る。傍目には20代半ばの男が2人座っているだけである。

 「やあ、妖精さん。あなたは、なにをしてくれるんです」

 「さあ……」

 「羽は生えていないんですね」

 「ええ……」

 「それじゃあ、願いを叶えてくれるんですか」

 「それはそうなんですが……」

 「なんでも叶えてくれるんですか」

 「その……すでに別の人から頼まれていまして」

 「うん? ていうことは、誰かの願いを叶えるために、ここにきたと?」

 「ええ……」

 「ほう。でもどうせなら、おれだって願いを叶えてもらいたい」

 「ええ、協力できることなら……」

 「金が欲しいな。1000万くらいが欲しい。おれには恋人がいてな、彼女と結婚したいんだ。立派な指輪でプロポーズしたい」

 「ああ、いや……それはちょっと……」

 「ならその半分でいい。それだけあればいいものが買える」

 「そういうことでもなくて……」

 「なんです。なんなら叶えてくれるんです?」

 「あの、ぼくは人に頼まれてきたんです」

 「聞いたよ。誰になにを頼まれたんだ?」

 「山下菜々さんからです」

 男の恋人である。「へえ、彼女がなんだって?」

 「別れてほしいと」

 「え?」

 「いや、その……あなたと別れたいと」

 「いや、そんな……なんで急に?」

 「毎年毎年この頃に、美女がくるのを待っているのが嫌なんだそうです」

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