妖精に憧れて

宮田弘直

妖精になりたい理由

「今度の発表会ではシンデレラをやりたいと思います」


 ある日の保育園。


 僕は来月に控えた発表会に向けて練習を始める為に自分が担任をしている年長組の子ども達に向けて取り組む演目を伝えた。


「シンデレラ、楽しそう!」


「私、シンデレラ役やりたい」


 僕の言葉に子ども達は楽しそうにそれぞれ話をし始めた。


「お話はシンデレラだけど、出て来る人は皆で考えたいと思います」


 僕は子ども達を静かにさせると、そう伝えた。


 最近、このクラスではお話を作って他者に伝える事が流行っている為、それを皆で行い、協調性を育んでもらおうと僕は考えた。


「それって、シンデレラがお姉さんじゃなくて、私みたいに小さくても良いって事?」


 要はシンデレラが子どもでも良いか、という事だろう。


「そうだよ。それを皆で話をしながら決めていきます」


 その言葉に、「はい!」と言って真っ先に手を挙げたのは大輝君だ。


「大輝君、どうぞ」


「かぼちゃの馬車より鳥に乗った方が格好良いと思う! 『トリの降臨』って言うと空から降りて来るんだ」


「大輝君は難しい言葉を知っているね。台詞はともかく、かぼちゃの馬車を鳥に変えるのは皆はどう思う?」


 僕の問い掛けに、「確かに、そっちの方が格好良い!」、「空から来るって素敵だと思う!」と、子ども達は好意的に受け止めている様だ。


「そうしたら、かぼちゃの馬車を鳥に変えようか。他は大丈夫?」


 僕が問い掛けると、女の子がゆっくりと手を挙げた。


「ゆりちゃん、どうぞ」


 ゆりちゃんは普段大人しく、皆の前で意見を言う様子があまり見られない。


 そんなゆりちゃんが自分から手を挙げた事に嬉しく思いながら名前を呼んだ。


「えっと、魔法使いを妖精に変えたらどうかなって。その方が、えっと、可愛いと思う……」


 ゆりちゃんは辿々しくも最後まで頑張って自分の言葉で意見を言い切った。


「うん、妖精の方が可愛いと思う!」


「魔法使いより魔法が上手そう!」


 そんな好意的な意見が沢山出て、ゆりちゃんは安心した様な笑みを見せる。


「よし、それじゃあ、魔法使いは妖精に変更だね」


「……あの、先生」


 そう結論づけると、ゆりちゃんが恐る恐る僕に声を掛けてきた。


「ゆりちゃん、どうしたの?」


「その、出来たら私が妖精役をやりたい」


 まだ役決めの段階では無かったが、ゆりちゃんがここまで自己主張をする事は珍しく、この機会を逃してはいけないと僕は思った。


「そうしたら、取り敢えず、妖精役だけ決めようか。他にやりたい人はいる?」


 僕が問い掛けるも他に手は挙がらない。


「なら、妖精役はゆりちゃんにお願いします」


 ゆりちゃんは僕の言葉に嬉しそうに頷いた。


「ゆりちゃん、なんでそんなに妖精役をやりたかったの?」


 すると、その様子を不思議に思ったのか、隣に座っていたみゆちゃんがゆりちゃんに話し掛けた。


「えっとね、私の好きなアニメで妖精が沢山の人を助けるの。私もそうやって沢山の人を笑顔にさせたいな、と思って」


「私もアイドルになって皆を笑顔にさせたいの! 一緒だね!」


 そう言って笑い合う二人を見ながら、ゆりちゃんがやりたい事や思っている事を堂々と言った姿に成長を感じ、胸が熱くなったのだった。

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