家族のために望まない結婚をしようとしていましたが、助けたトリが救ってくれたようです
紗久間 馨
おとぎ話
いつかの時代、どこかに住んでいたフローラという女の子のお話です。
フローラは小さな村の貧しい家で育ちました。
「だれかにした親切は、いつか返ってくるんだよ」
そう両親に教えられてきました。
他者を助けられるほど暮らしに余裕はありません。
それでも、困っている人に手を差し伸べるのです。
フローラは心身ともに美しく成長していきました。
ある日、村の近くで馬車が止まっているのを見つけます。
ぬかるみに車輪がはまってしまったのだそうです。
フローラは村の人たちに声をかけ、馬車を助け出しました。
その夜、馬車に乗っていた男がフローラの家にやってきました。
「愛にあふれて、かわいらしい娘を妻として迎えたい」
フローラよりもずっと年上で、いやらしさを感じるような男です。
家族は断りました。
「わたしの妻になれば、この村に多くの金を与えよう。そうすれば、みんなが豊かに暮らせるぞ」
男の言葉を聞き、フローラは妻になることを決めました。
次の日には馬車で男の家に向かっていました。
嫌な臭いが漂う中でフローラは男と二人きりです。
男は嫌な手つきでフローラの体に触ります。
「夫婦になるとは、こういうことだ」
苦痛に顔をゆがめるフローラに、男はそう言いました。
「拒めば家族がどうなるかわからないぞ」とも。
フローラは家族のために我慢しました。
馬車が急に止まり、トントンと扉を叩く音がしました。
「おい、何だ? どうした?」
男は不機嫌そうに声を荒げます。
体から男の手が離れたことで、フローラはほっと胸をなでおろしました。
扉の向こうから返事はありません。
男は怒って扉を開けました。
すると、何かがスッと入りこみ、男にまとわりつきます。
一羽の小さなトリが男をつつきました。
燃えるような赤い羽の色が、フローラの心を温めていくようです。
神がつかわしたトリの降臨に違いないと思いました。
何度も何度もつつかれた男は、ついに馬車から落ちました。
おそるおそる外をのぞくと、御者と使用人も倒れています。
男が弱いながらも息をしているのがわかりました。
心から望んだ結婚ではありませんが、目の前で苦しんでいる人を放っておけません。
フローラが手を伸ばしかけた時、木の枝が男の首を貫きました。
もう男は呼吸をしていません。
恐ろしい光景を目前にしているのに、フローラの心は安らいでいます。
木の枝を刺したのは若い男でした。
風に揺れる髪の赤は、馬車に入ってきたトリの色に似ています。
差し出された手をフローラは迷うことなく取りました。
その瞬間、わかったのです。
「もしかして、いつか助けたトリさんなのではない?」
「ああ、そうさ。けがをしたぼくを、あなたが助けてくれたんだ。ありがとう」
「もうすっかり治ったのね。それにしても、トリさんなのに人の姿をしているだなんて、不思議だわ」
「ぼくはただのトリじゃないのさ。少し変わった力を持っているんだ」
「まあ。わたしったら特別なトリさんを助けたのね」
「ぼくにとっては、あなたこそ特別な人だ。ああ、間に合ってよかった。あなたが汚されなくてよかった」
フローラはトリの腕に抱かれました。
とても心地よい体温にフローラは包まれました。
花の咲き乱れる中で、フローラは途方に暮れました。
「どうしたんだ?」
トリが心配そうに顔をのぞきこみます。
「これからどうすればいいの?」
「どうって、ぼくと一緒にいればいいのさ」
「でも、あの男を殺してしまったわ。男を知る人が家族を訪ねたら、ひどい目にあうかもしれないわ」
「そんなことか。心配ない。まわりを見てみろ」
トリに言われたとおりに、あたりを見回します。
なんと馬車も死体も消えているではありませんか。
「どうなっているの?」
「ここはぼくの世界だ。あなたの不安など全て消してしまおう」
トリはフローラの目を手のひらで隠しました。
「さあ、目を閉じて。ぼくの声だけを聞いて。ぼくだけを感じて」
フローラの中にはトリの存在だけが残りました。
もうトリさえいればいいのです。
フローラは幸せなトリの世界で暮らしましたとさ。
家族のために望まない結婚をしようとしていましたが、助けたトリが救ってくれたようです 紗久間 馨 @sakuma_kaoru
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