不思議な女の子【KAC20253】

空き缶文学

不思議な子

 なんだか悪い夢を見た気がする。

 カウンターから上体を起こし、思い切り背を伸ばした。

 古本屋の外に何かがいる気配がして、外を覗いてみる。

 すると、女の子が立っていた。

 彼女の年齢は、恐らく六、七才だろう。小さなお人形みたいな瞳で僕を見上げて、背中に生えた羽をゆらりと揺らす。


「んん、羽?」


 透明に近いほど薄い羽で、目を奪うほど綺麗な模様が描かれている。

 いや、そういう服なのかもしれない。それより、迷子かも。

 軽く咳払いをして、しゃがみ込む。


「君は、どこの子? ここは古い本屋なんだ。ほら、店はボロボロ、町から離れてるし、客足がかなり遠い……つまり、君のご両親はここにいない」


 なるべく微笑みを絶やさないよう声をかけたが、女の子はジッとしてる。


「あー……名前は? どこの子かな?」


 純真無垢な瞳がずっと僕を見るだけで、何も返ってこない。


「んん、本でも読む?」


 店の入り口にある棚、背表紙をなぞって、童話の本を取り出す。

 妖精の挿絵が描かれた、可愛らしい童話で、妖精の国で女の子が大冒険するお話である。

 女の子に渡してみると、目を輝かせた。

 クスクス笑うと、軽く跳ねてイスに腰かける。

 親指と人差し指で、無邪気にページを捲っている。

 そのうち我が子を心配して親が探しに来るだろう、店内へ足を動かす。

 

「あれっ!?」


 クスクス笑う女の子。

 今さっき店の外にいたはずなのに、カウンターの内側に座っていた。


「い、いつの間に」


 羽をひらひら揺らし、童話の本を抱きしめている。


「君は、一体?」


 恐る恐る訊ねてみても、女の子はやっぱりクスクス笑うだけで答えてくれない。

 小さな人差し指をくるくる回し、光の粉が舞う。

 本棚に収まってる古本たちがガタガタと動き、突然宙に浮いたじゃないか!


「えぇ!? どういうことなのぉ?!」


 翼のように羽ばたかせ、店内を飛び回る。

 壁にぶつかって紙が折れ曲がったり、表紙がへこんだりしてしまう。


「わわわぁ! 集めた本がっ、あのぉ! 大切に扱ってほしいんだけど!!」


 もう何が起こってるのか分からない、店内に向かって叫ぶしかなかった。

 すると、本はぴたりと動きが止まる。

 女の子は、少し口角を曲げて、ギュッと手をグーにしていた。

 本棚へ吸い込まれるように戻っていく。

 あぁ良かった、胸を撫で下ろして安心していると、今度は女の子がカウンターの上に立ってしまう。


「ちょ、ちょっと! カウンターの上だよそこっ」


 女の子は僕の反応を楽しんでる。クスクスクスクス、笑い声が店内に響く。


「降りてくれ!」


 強い口調で女の子に伝えた途端、ムッと眉尻を上げ人差し指を僕に突きつける。

 光の粉が僕の体にかかった。


「わ、わぁ!?」


 両足が宙に浮き、身動きがとれなくなってしまう。


「うわうわ、や、やめろ! こんな、こんな酷いことするなら、も、もう来ないでくれ!!」


 とにかく必死だった。女の子に訴えると、退屈な表情を浮かべて指を振り下ろす。

 床に思い切り、体がっ!?


 鈍い音だったと思う。

 痛みを覚える前に、僕は、意識を失ってしまった――。





「はっ!?」


 目を覚ました。

 カウンターの上、僕はいつの間にか居眠りしていたみたいだ。

 なんだか悪い夢を見た気がする……体も痛い。

 クスクス笑う声が外から聞こえてきた。

 なんだろうと、僕は古本屋の外に出て、覗いてみる。

 すると、店の外には童話の本を抱えた女の子が立っていた……——。

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