KAC20253 妖精
小烏 つむぎ
妖精
「あ、ママ……妖精が、いる」
リビングに敷いた布団で寝ていた娘の
「
「なんだ、花瓶に光が反射してただけか。あー、コーヒー飲みたい」
「授乳中にコーヒーって大丈夫なの?」
「どうだっけ?」
「ココアは? ココアならいいんじゃない?」
大きな窓から部屋の中へと柔らかな陽の光が差し込んでいる。それを見て
「昔さ、わたしこの窓から差し込む光に妖精を見たことがあったんだよね。」
「妖精を?」
「なんかね、ちいさくてトンボみたいな羽をつけた光のつぶ。みたいな」
「そうなの? 子どもの頃?」
「うん。このうちに引っ越して来たばかりのとき。まだ小学校に馴染めなくて、ママは新居の巣作りに忙しくてさ」
台所で牛乳を温める母親の背中に
「巣作りって」
確かにあれは巣作りだったなと思いつつ、母の
子どもの頃からずっと賃貸暮らしだった
南向きに大きく取ったリビングの掃き出し窓からは日差しも風もよく通る。
家族の居心地がいいようにと選んだ大きめのソファーは
そんなテーブルもソファーも、
コトリと軽い音がして、食卓に淡く湯気をたてるマグカップが置かれた。
風に揺れるレースのカーテン越しに、陽の光がキラキラと差し込んでいる。光は窓の正面にある飾り棚のカットグラスを煌めかせ、花瓶に反射して床に星屑を撒いていた。
「あの頃さ、あのキラキラの一つ一つが妖精に見えたんだよね」
「へぇ、
懐かしそうに話す
「あ、
「食べる! あれ美味しいんだよね。出産祝いなんだって。そっか、
「せっかく仕事帰りに寄ってくれたのに、アンタも赤ちゃんも爆睡してて起きないだから。可哀想だったのよ」
カーテン越しの光は布団で寝ている
「あら、
「えー、もう?」
「まぁ、でも泣いてないから大丈夫じゃない?」
カップを置いて立とうとする
「ほら、妖精さんに遊んでもらってるのかもよ」
「もう、ママ。やめてよ。恥ずいじゃん」
「けど、案外そうなのかもよ」
日差しと遊ぶように手足をバタつかせる
KAC20253 妖精 小烏 つむぎ @9875hh564
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