3話

あんなことがあって、家に帰ってきてから涼は死んでいるように目を覚まさなかった。冬が終わり、どこからか梅の香りがする。それでもずっと涼は目を覚まさない。涼が眠っている間、ミズキは涼の代わりに龍の世話をした。朝になったら起こして、ごはんを食べさせて、夜になったらお休みをして。合間に涼の体をタオルで拭いたり、唇にリップクリームを塗った。何も食べていないのにちゃんと脈は打っていて、生きていることに安心するのに怖い。涼のことは何でも知っているはずなのに、自分のこともわからなくて毎日涙が出た。泣きそうなときは、いつも隣に涼がいて、泣くのが嫌な俺が泣かないように笑ってくれた。今思えばどうしてあんなことしちゃったんだろう。涼が外に行くときに、俺も一緒に行けばよかったのに。そうすればあんなに涼が、寒そうで、それなのに優しくて、今日も俺は涼の眠るベッドに涙を濡らした。

起きても涼は目を覚まさなかった。でもベッドに腰掛けるように梅さんがいて、彼女は涼の髪をなでていた。起きた俺の視線に気が付いて、なでていた手を引っ込める。俺は梅さんをそのままに洗面所へ向かった。

鏡に映る俺は、とてもアイドルをしていたとは思えないほどやつれていた。食事をとって、ちゃんと寝落ちしているのに、頬はこけているしクマもひどい。髪も前に一度切ってから何にもしていないせいで、伸び放題。肩に髪が付いてる。邪魔なのに何にもしない。顔を洗って、拭いてから頬をたたく。龍を起こしに寝室へ向かった。

俺がここに来た時、龍はとても早起きだった気がする。だが涼が目を覚まさなくなってから、夜八時には寝て朝八時に俺が起こすようになった。今日も長い髪が散乱するベッドの上で寝ている。体には触れず、声をかけて起こす。何度か呼び掛けていると、ようやく長いまつげを揺らした。そうしてもう一度名前を呼ぶと目を覚ました。それを確認して俺は朝ご飯を作りに行く。といっても昨日の残り物を温めるだけだ。涼がいたときは毎食必ず出来立てのおかずが出ていた。昔から料理が趣味なのは知っていたけど、俺にはそんな芸当到底まねできない。

温めたおかずやご飯をダイニングテーブルに置く。箸をセッティングしていると龍がやってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

龍の尾を踏む 碓氷もち @usuimochi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ