憧れの
空花 星潔-くらげ せいけつ-
アイスサウナ
アイスは思った。
サウナに行きたいと。
アイスには賞味期限が無い。
冷凍庫の温度で生存できる菌が無いからとか、なんとか。
そんな理由だったはずだが、まぁなんにせよ賞味期限が無い。
が故に、夏の終わりに購入されたきり一口も食べられる事無く冷凍庫に保管されている。
ビターチョコでコーティングされたチョコアイス。
贅沢なチョコ尽くしのアイスは、そろそろ暗くて狭いだけの冷凍庫に居続ける事に飽きていた。
冷凍庫で過ごしながら、思い出すのはとある記憶。
工場で働く人が「サウナ行きてぇ」とボヤいた記憶だ。
サウナが何なのか、アイスは知っている。
熱くて人が溶ける空間だ。
工場の人が言っていた。
サウナで溶けるのが好きだと。
冷凍庫に入れられて既に半年が経過しているアイスだ。
これから更に半年待たないと食べて貰えないのなら、せめてサウナに行って溶けたい。
もう、寒いのには飽きた!
――という事で、アイスは外に出た。
夏の終わり。10月頃に買われたから、外は四月。
春と言われる時期だ。暦の上ならなんなら夏だ。
暖かいはず……と思ったが、寒い!
確かにこの気温だったらアイスなんて食べたくないだろう!
「というか、寒すぎる!?」
雪が降っている。
なんなら吹雪だ。
猛吹雪。
北海道の冬とかに、時々ニュースで見る光景だ。アイスは見たことが無いが。
しかしここは沖縄。
そう。
沖縄なのだ。
冬でも暖かいはずの!
どうしてこんなに寒いのか……。
アイスは震えながらサウナを目指した。
が、よく考えたらサウナがどこにあるのか知らない。
工場の人が話していた事をかなりよく聞いていて、冷凍庫の中からも家主の言葉を聞いていたアイスはとても物知りだ。
しかし、地理はさっぱりである。
「迷子の迷子のアイスさんになってしまった……」
うろちょろと歩き回るアイス。
家の道へのもう分からない。
このまま、誰にも見つけられないまま凍えて死んでしまうのだろうか。
アイスだから元々凍ってたか。
アイスは必死に歩き回った。
そこで、気づいたことがある。
そういえば、家を出てから一人も人間を見ていない。
それどころか、生き物も――
「あっ、アイス見つけた!」
アイスを購入し、冷凍庫で大事に大事に保管していた家主が現れた。
「帰るよ〜、もう、家出なんかして……」
家主に抱き抱えられ、帰宅。
「あー寒。サウナ行きたいなぁ……」
家主がぼやく。
「フローズンアポカリプスって言うのかなぁ、急に氷河期になっちゃって。もう暖かい夏って、憧れの季節になっちゃうのかもね」
家主はアイスに声をかけながら、アイスを冷凍庫に戻した。
憧れの 空花 星潔-くらげ せいけつ- @soutomesizuku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます