エジプトであこがれのしゃぶしゃぶ肉への道
高台苺苺
第1話 エジプトであこがれのしゃぶしゃぶ肉への道
旦那の仕事の都合でエジプトはカイロ在住の花岡夢乃は、近所のスーパーの肉コーナーで悩んでいた。
日本と同じ真っ白なタイル張りのコーナに、磨き込まれたガラス張りのショーケースには、カラフルな野菜と一緒に、牛肉、羊肉、鶏肉、鴨肉、鳩等等、大きな塊から羽を毟って内臓取り出した直後のまんまの形から、いろんな肉の部位がデコレーションされている。
後ろの丸見え(何故に?)になっているガラス張り貯蔵庫?には、屠殺処理された元の形が分かる肉が、ずらーーりと誇らしげに並んでいる。
最初の頃はこの生々しい肉を見るのが怖くて嫌で、肉はもっぱら夫の和也が購入するか、メイドのヤシラに頼んで市場で安く大量に買ってきてもらい巨大冷凍庫に保管して使っていたものだった。
それが今では平気で吟味できるようになった。偽物ではないか?新鮮であるか?ぼったくられてないか?自分も逞しくなった物だと夢乃はうんうん頷く。
因みに豚肉はここにはない。それ関連の加工品もない。
イスラム教では豚は不浄の動物とされているので、豚専門の許可された肉屋でしか販売されていないのだ。もしくは同じく許可を得ているちょいお高いアジア系スーパーとかね。
買い方は簡単。
塊を指さし「これを〇㎏」と言えば、その分量を切ってくれる。
粗目だけどミンチに、スライス肉もキューブタイプの肉も売られているので、同じく指さして「〇㎏」と言えば、あとは日本でもよくある自動計測の計りにかけて、紙に包んだ物にマジックでキロ数と金額を書いて渡してくれるので、キャッシャーに行けばいい。
店によってはそのコーナーで支払う形式もある。
簡単なんだけど…本日はこの肉コーナーの本日の担当ハサンと、一勝負をしないといけない。なぜなら本日の夢乃が欲しいお肉は!薄さ指示が大変な「しゃぶしゃぶ・スライス肉」なのだ!!
なぜなら今夜は我が家で「しゃぶしゃぶ・パーティー」とする予定なのだ!何故かと言うと、先日のゴルフで夫の和也が負けたからだ!
あのアホウ!!
負けた者が「会場・家」と「肉等具材」と「酒」を用意する約束らしく、それで夢乃はしゃぶしゃぶ肉を3キロ(足りるかなあ?)を買いに来たのだった。
だが!海外では何故か、日本によくある薄切り肉がない!
あっても生姜焼きのちょい厚いのくらいだ。
日本みたいにいろんな形状にカット、スライスされた肉などここにはない!
欲しければ肉屋と交渉し、指示し、ゲットせねばならいないのだ!
カイロでは普通キロ単位の塊でどかん!!と購入し、各自家でスライスしたりミンチにする。その方がコスパいいし、自分好みで使えるからストレスないからなんだそうだ。なるほどねえ。
ちまちま細かい指示を出してくるのは大概日本人マダムなので、肉屋も日本人マダムが来ると少し身構える気がする(多分・笑)。
そしてハサンも少し身構えながら、夢乃をガン見している。夢乃がニコリと笑うと、ハサンもにこりと笑う。
戦闘(クエスト)開始だ!!チーン(どこかで開始ベルがなる・笑)
夢乃はショーケースの中の、美味しそうなさしの入った牛肉の塊を刺して言う。
「ハサン、しゃぶしゃぶ・スライス サラーサ・㎏(3㎏)OK?」
「OK!OK!」
「ラー!(NO)スキヤキ・スライス!(スキヤキス・ライスの薄さじゃないよ?)」
なんでか分からないが、(当時)その肉屋では、スキヤキ・スライス>しゃぶしゃぶ・スライスな感じで厚さが違うと言われていたが誰が決めた基準なのか不明。
「アイワ!(わかってるって)」
と、ハサンはニコニコしながら肉の塊を取りだし、大型業務用スライサーの上にどかん!と置くと、メモリをちまちまと調整する。そして親指立てて、スイッチオン!
ずーしゃ!ずーしゃ!
と、快調な音を立てて、どんどん薄切り肉が積みあがっていく。ハサンは歯を見せてにかっ!と笑うと親指立てた。
だが、それはどう見てもスキヤキ・スライスよりも厚い、生姜焼きとスキヤキの中間くらいの中途半端な薄切り肉だった。
くそー!今日も負けた(クエスト失敗)か!!
しかも、計測器の上にどかんと乗せられた肉は、800gもオーバーしていた。おいっ!!
「ハサン、サラーサ㎏!(3㎏だよ!)」
「ラー ムシュキラ!ラームシュキラ!(問題ない問題ない) ケダ(これは) サービス!」
そして親指立ててにかっ!と笑う。
は?800gをサービス?
いくらルーズな国カイロでも、サービスになんてできないでしょうが?
日本なら絶対あり得ない。大問題になるよ?
だが、ハサンはお肉をくるくる紙に巻いて、上からマジックで、確かに3㎏分の値段しか書かなかった。
牛肉800g、カイロではサービス範疇なのだろうか?それとも計測器壊れている?あり得る!!そっちの方が絶対にあり得る!!
これは本当に3㎏あるのだろうか疑いながら、夢乃は他の野菜等を籠にいれてキャッシャーに向かった。
因みに帰宅して家のスケールで計測したら、3㎏500gちょいでした(苦笑)
と、いう事でその夜のパーティーは少し分厚いしゃぶしゃぶもどきパーティーになり、一番の話題はハサンの800g(500g)サービスだった。
日本人全員が大雑把エジプト人の域を超えていると絶句していた。
そんなことばかりしていたら店がつぶれるんじゃないか?とか。
スーパーの雇われ店員だから気にしないんじゃないか?とか。
実は夢乃は日本人だからと舐められて既にぼったくり料金で計測されていたんじゃないか?と、夢乃の名誉に(どんな?)関わる事まで酔っ払い達が言い出し、そんなことはない!と反論してパーティーは大盛り上がりに盛り上がって幕を閉じた。
「やっぱりスライサーとミンサーが欲しい!!」
夢乃はネットを見ながら和也を振り返る。
「そう言うと思った。しゃぶしゃぶ肉、全敗だもんな」
「そうなのよ!!高田支社長夫人とか駐在歴の長いベテラン奥様は、華麗にスキヤキ・スライスからしゃぶしゃぶ・スライスまで注文されるけど、私達ペーペーマダムは舐められているのか、1度も勝ったことないのよね。私ももうあの注文ストレスとがっかりストレスには耐えられないよ。」
「俺もクエスト攻略できたことないしな」
「あそこはチートじゃないと無理なんだよ」
あははははと二人は笑い、うーむとネット画面を睨む。
「安さで言えば、国産(エジプト)か、某国の怪しい名前のパクリ物ね。でも1回使ったら壊れそうだし…なんかなあ…。
信用できるのはやはり欧米メーカーだけど高いし。取り扱い説明書が結構大雑把だから、後でぎゃー!になる可能性もあるし」
「プラスチック部部品が多いと壊れる率も高いけど、業務用は大きすぎから無理だしな。
あ!そうだ!家の備品としてオーナーに頼んでみるか?それがダメだったら買えばいいし、もしくは日本製のを取り寄せるとか」
「運賃かかるよー。それに無事に税関通るかどうかもカケだし…。出張者にお願いするのには重すぎるし…」
散々悩んだ末、とりあえず海外賃貸アパートメントあるあるの、家の備品としてオーナーに頼むをしてみることにした。
打診した数日後に、オーナー夫妻が(いつもペアで来る)ニコニコ上機嫌で大きな荷物をバーブ―(ビル専属のなんでもする男性達)に運び込ませていた。
え?なんだか電子レンジの箱よりでかいんですけど?ちょい小さな冷蔵庫くらいあるんですけど??あれ何?まさかスライサーじゃないよね??
どきどきする夢乃の代わりに、オーナー夫妻が来るといつも前面で戦うメイドのヤシラが、オーナーマダムとぎゃーすか言いながら(喧嘩ではない。通常会話)キッチンでその箱から…箱から…ハサンの店にあった業務用スライサーよりもはるかにでかい!!それ!その大理石板のキッチン台にのるんですか!?な超重量機械を出した!!
「マダム絶対無理!!!」
混乱して日本語出す夢乃。
「ラー ムシュキラ!ラームシュキラ!(問題ない問題ない)」
何故か通じているオーナー・マダムは、バーブーに命令してキッチン台に乗せた。
バキ…
案の定、大理石の板にひびが入り、同時に下の支えの棚になっている部分もへしゃげ出した。
「ぎゃああああ!」「うわああ!」「〇×△!※※※!!!」「だから言ったじゃないいいいいい!!!!」
アラビア語と日本語となんかよくわかんない言葉がキッチンに交錯し、バーブ―は危険を感じ床に機械を落とすように置いた。
バキ…
大理石タイル床…割れました。
「ぎゃああああ!」「うわああ!」「〇×△!※※※!!!」「だから言ったじゃないいいいいい!!!!」
その後はヤシラが危険と感じて夢乃をキッチンから出し、安全なリビングで待機。キッチンでは怒号のオーナーとバーブ―とヤシラの声が延々と響き…夢乃は半泣きで会社の和也に連絡し、電話越しに聞こえる惨状に、嘆息ついた和也が秘書のヘバちゃんを連れて帰宅したが、そこからヘバちゃん参戦の…4つ巴のラスボス戦に突入し…
結論としてオーナーがいらん気を遣って搬入した巨大スライサー機械は撤収され、翌日には床を直す職人が来て、壊れたキッチン台も交換し何もなかったかのように元に戻った。
と、いう事で、私達は大人しく大型量販店で店員お勧めのちょいお高いドイツ製のスライサー等を購入したのだった。(旅行を1回分諦めました)
スライサーは3回使ったら歯がダメになったが、もう二人は何も文句を言わず、粛々と買い直した。
それは数年後に夢乃の両親が日本の河童橋で店員さんお勧めのスライサーを重量覚悟で運んできてくれるまで続いたのだった。
なので、カイロに駐在に行く時には、日本で購入した安心安全説明書も日本語の!使いやすい!スライサーを持参する事を!!強く!!!お勧めいたします!
エジプトであこがれのしゃぶしゃぶ肉への道 高台苺苺 @kakyoukeika
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