遠いあいつ
未羊
読み切り
俺には自慢の親友がいる。
そいつは明るくて誰にでも優しくて、なんでもできる。地味で引きこもりがちな俺とはまるで正反対。俺からすればまぶしくて、あこがれのような存在だ。
家が近くということもあって、俺とそいつとは幼い頃からの付き合いだ。
あいつが俺のことをどう思っているかは知らないが、こんな俺でも付き合ってくれるんだから、あいつはいいやつに違いない。
中学生の時、動画配信というものに出会った。
機械いじりの好きだった俺は、あいつを誘ってあれこれと動画を上げてみようという話を持ちかける。
あいつははにかみながら、そんな目立つのは好きじゃないと笑っていたのが印象的だ。
恥ずかしがるあいつを俺は必死に説得する。俺の熱意に押されたあいつは、しょうがないなと誘いに乗ってくれた。
試しに撮ってみた動画。それは、流行のダンスを踊ってみるというものだった。
どんくさい俺とは違って、あいつはすぐに踊りをマスターしてしまう。準備が整うと近くの公園で早速撮影を始める。
本当にキレッキレのすごいダンスだった。見る者すべてが息を飲んでしまうくらいの素晴らしいものだった。
体中から光を放ってるんじゃないかというくらいにまぶしい。なんとも不思議な感覚に陥ってしまう。
その動画を投稿してしばらく、あいつの元に芸能事務所の人間がやって来た。あいつの光にあふれた才能に目を付けたんだ。
俺は相談を受けた。
本当は引き止めたかった。
でも、俺はぐっと気持ちをこらえてあいつを送り出した。きっと今よりももっと輝けるはずだと考えたから。
しばらくして、あいつは芸能界へと飛び込んだ。
あっという間に売れっ子になり、今後の芸能活動のことを考えて引っ越すことになっちまった。
引っ越し後も続けていたメールのやり取りも、次第に途絶えてしまう。
気が付けば、いつも隣にいたはずのあいつがいない。分かっているはずなのに、ついつい話を振ってしまう。
たった一人、あいつがいなくなっただけでこれだ。 ……なんだか、ぽっかりと心に穴が開いた気分だよ。
今日も俺は教室の窓際に立つ。
……あいつは遠いところに行っちまったんだな。
俺が見上げる空は、今日も青くて雲一つない素晴らしい天気だった。
遠いあいつ 未羊 @miyou
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