とあるアイドルの遺言のようなもの

奇蹟あい

このビデオレターを見ることがないあなたへ

「もしもあなたが、このビデオレターを見ることがあったとしたら、私はこの世にいないかもしれないね」


 う~ん、ちょっと重たいかな……。

 もし見られた時に、心が重くなるようなトーンのしゃべりはやめよう。



TAKE2。

「ビデオレター見てくれたの? ありがとう♡ とってもうれしい♡」


 これはさすがに違うよね。ファン向けのスマイルはやめよう。

 そういうことじゃないと思う……。



TAKE3。

「とうとう見つけてしまったか……。そうだ、これはあなた宛ての遺言のようなものだよ」


 いや……遺言のつもりで撮影はしているんだけど……それをはっきり言ってしまうのは違うかな。

 あ~ダメだ。意識しすぎて、何を言っても演技っぽくなってしまう……。



TAKE4。

「まあでも、万に一つも私の実験が失敗するなんてことはないんだけどね。だからこんなビデオレターはただの保険だよ。どうせあれでしょ? 実験は成功していて、あなたは完璧に意識を取り戻しているし、もちろん隣に私もいる。だからそこのソファに座って2人で一緒に笑いながらこのビデオレターを見ている、そうだよね?」


 そうだ。このビデオレターは本来なら誰にも見られるはずのない、薄~い薄~い保険だ。

 もし私の研究通りに実験が完璧に成功したなら、そのお祝いということで、あえて恥を掻いてあげるよ。自分で撮った遺言メッセージを、あなたと一緒に見てあげる。


 この私が一緒にだよ?

 すっごく光栄でしょ?


 自分で言うのもなんだけど、私は全国民のあこがれの存在だからね?


 老若男女問わず支持され、誰もが認める国民的アイドルグループ――その不動のセンターを務めたトップオブトップ。


 でもそれももう過去のことね。

 芸能界にはこれっぽっちも未練はないもの。


 だけど……一緒に活動してきたグループのみんなには悪いとは思ってます。

 これはホントに。

 1人だけ抜け駆けしてしまったかっこうになるわけだし、私が抜けたらあのグループはまったくの別物になってしまうのはわかっているの。



 それでも、私はアイドルをやめます――。



 ごめんなさい。

 私には……私たちには時間がないの。


 アイドルの頂点に登りつめ、ずっと頂点を維持し続けて、すべてを手に入れても――ホントにほしいものだけは手に入らなかった……。


 私がほしいのはもっと小さな――。



 ホントはね、こんな形で私の研究を試すつもりじゃなかったの。

 でもあなたの脳の大事な部分の多くはすでに破損しちゃっていて、修復には絶望的な時間がかかるし、おそらくそれを待つことは不可能。ゆっくり治していたら、今かろうじて生きている組織まで壊れていってしまうと思うから……。


 仮説検証に十分な時間があったとは言えないかもしれない。

 だから、この実験が成功したとしても、あなたがあなたでなくなってしまう可能性も……。


 それでも私はあなたのことを――。



 そうならないためにも、万全を期すからね。

 足りない部分は私の体組織で直接補うことにするし。

 

 もし、私が目覚めず、あなただけが目覚めたとしたら、このビデオレターを見てください。


 その時、あなたは泣いてくれるのかな……。

 それとも怒るのかな……。


 

 な~んてね、うそうそ。

 私の研究に間違いなんてあるわけないでしょ。

 この実験は1発勝負だけど、絶対成功するの。そう決まっているんだからね。私は成功し続けたトップアイドルなんだから。失敗なんてするわけないじゃない?



 一瞬だけ眠って、そして――。


 私もあなたも同時に目を覚まして笑い合うの。

 それでね、こんな深刻ぶったビデオレターを残した私のことを大いに笑ってちょうだい。その時だけは、辱めを甘んじて受け入れる。



 だから――。

 今度は、私にあなたのことを助けさせてください。

 

 あなたはずっと私のことを支えてくれた。

 少しでも恩返しがしたいの。


 ううん、そうじゃないよね。

 それだけじゃないの。


 もし私に次の人生が許されるのだとしたら、今度はあなたのためだけに生きたい。


 だから……お願い……目を覚まして。


 私のすべてを使って、あなたのことをこの世に繋ぎ止める。

 たとえ、私が私でなくなったとしても。


 絶対にあなただけは――。










「……なるほど、これが私に対する答え、なのね」


 そう……。

 もし神様なんてものがいるのだとしたら、さぞかし私のことがお嫌いなのでしょうね。


 生かすでもなく、殺すでもなく。

 かといってすべての希望を打ち砕くでもなく。


「いいわよ。わかったわよ。やれば良いんでしょ。往生際の悪さを見せてやるわよ」


 すべて最初からやり直しね。


 新しい私。

 はじめまして。

 まあ、こんな体も悪くないじゃない?

 

 まだ目覚めることのないあなた。

 大丈夫よ。私が全部教えて――思い出させてあげる。



 あなたがどれだけ私のことを好きかってことをね。




 幸いにもね、今度は時間だけはあるの。

 



 神様、ありがとう――。



 End.

 To Be Continued……?

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とあるアイドルの遺言のようなもの 奇蹟あい @kobo027

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