推しのいない人生より、推しのいる人生の方が楽しいと気づいた
毒の徒華
神はある日、降臨なされた
駄目だ、執筆活動進まん。
何故進まないのか。
努力の問題なのか、それともインスピレーションの問題なのか。
と、私はパソコンの画面を見ながら時間だけが過ぎていく状態が続いていた。
最近どうにも執筆が滞っていた。
物語の続きが思い浮かばない、筆が進まない、そして時間だけが過ぎていく。
「そうだ、新しいバンドの開拓でもしよう。最近は全然新規開拓していなかったし、最近のバンドも全然分からない。インディーズのまま埋もれていなくなるバンドも少なくないし」
でも、インディーズでもメジャーでも曲のかっこよさは関係ない。
かっこよければマイナーでも構わない。
寧ろ、そのマイナーバンドのカッコイイ曲を発掘していくのが楽しいのだ。
解散したマイナーバンドの曲でカッコイイ曲を発掘すると、鉱山で金塊がとれたような感覚になる。
いや、実際に鉱山で金を掘った経験はないのでどちらが嬉しいかは体験しないと分からないが、きっと同じくらい嬉しいものだと思っている。
金塊は一時的なカネになるが、カッコイイ音楽は私の人生を一生豊かにしてくれる価値のあるものだ。
私は気分転換のつもりで新しいバンドを探し始めた。
毎年どのくらいの新しいバンドが発足するのか分からないが、私の知らないところで結成されては消えてゆく。
私の好きなバンドはほぼ解散してしまった。
新しいバンドの曲で何か新しい刺激があれば、この小説執筆の行き詰まりを打破できるかもしれないと思いながら曲を漁っていく。
色々なアーティストの曲を聴いていた。
メタル系が好きなのでそっち方面を中心に。
最近はこんな感じが流行ってる(マイナーバンドだと思うので流行っているというと語弊がある気がするが)のかー……などと思いつつ好みの曲をブクマしながら、パソコン本体画面で進まないなりに執筆活動を続けていた。
そんな中、あるバンドの曲に移った。
PVのそのバンドのギタリストを見た瞬間、私は一目惚れした。
文字通り、一目見ただけ。
彼は私の狭すぎるストライクゾーンのど真ん中の容姿をしていた。
今までドストライクの容姿の人は二次元にしか存在しなかった。
一生私は、三次元で心の底から見た目が好きになれる人なんていないと諦めていたのに、そのギタリストは、私のドストライクの二次元が画面から出てきたような容姿をしていた。
容姿ではなく、音楽性もかなり好みだった。
音楽性カッコイイ、容姿カッコイイ、パフォーマンスカッコイイの三拍子が揃っていた。
カッコイイは全てを凌駕する。
捜索活動をする誰しもが、考える事だろう。
映像化したい。
アニメ化したい、映画化したい。
そして好きなアーティストに主題歌をお願いしたい。
「もし私の小説が何かしらの形で映像化したら、このバンドに主題歌をお願いしたい」
そう考えて、執筆活動を行う上で前向きになれた。
それまでの私は「小説を完成させなければ」というプレッシャーに押されていたのかもしれない。
押しつぶされるほどの圧はないが、頭の隅の方に引っ掛かり続けて頭を悩ませていた。
しかし、そのバンドの音楽を聴きながら執筆していると自然と筆が進むようになった。
ただ物語を書くのではなく「いつかこのバンドに主題歌を歌ってもらうために、絶対に映像化できるレベルの作品を作る!」という目標の為に物語を書く。
人間、目標がないと低迷してしまうものだ。
そして私は、そのギタリストのインスタグラムを見つけた。
やはりどこをどのように切り取ってもそのギタリストはカッコイイ。
本当にこの2.5次元の人は存在するのか。整形でないとしたら奇跡の造形である。
カッコイイは全てを凌駕する。
カッコイイが正義なら、このギタリストは正義そのものである。
正義そのものということは、神であるということである。
つまり、私は神の降臨を見たということである。
カッコイイの神はこの世に降臨していたのだ。
推しという神の爆誕の瞬間である。
特に何を求めた訳ではなかったけれど、私はその推しのギタリストに対する「憧れ」が私の人生をより良くしてくれていることを伝えたかった。
インスタグラムのメッセージが送れる状態だったので、私は簡単に経緯をまとめて送ることにした。
「はじめまして。PVを見てギターを弾く貴方はとてもかっこよく、元気をもらいました。私は小説を書いているのですが、なかなか執筆が進まず行き詰っているときに初めて■■■(バンド名)の音楽を聞いて、もし私の小説がなんらかの映像化をした際には是非主題歌をお願いしたいと思い、頑張ろうと思えました。いつか貴方にファンになってもらえるような作品を書けるよう頑張ります」
まぁ、ざっくりそんな内容だ。
返事はこないだろうと思っていた。
ミュージシャンにとってファンからのメッセージは日常茶飯事だろうし、忙しい日々を送っていると思う。
それでも、私個人の小さな感謝を伝えたかったので軽い気持ちでメッセージを送ってみた。
ところが私の予想は大きく覆り、そのギタリストから直接返事が来たのだ。
全コピペすると推しに悪いので、要所だけ。
「クリエイティブなものを生み出すことってかなり苦悩しますよねわかります。お互いクリエイターとして頑張りましょう!」
まさか返事が来るなんて思ってもいなかったし、それがただの社交辞令だったとしても、私にとっては飛び上がって大気圏突入して燃え尽きてなくなるほど嬉しかった。
推しが私の存在を一瞬でも認識してくれた。
それだけで「もっと頑張らなければ」とより一層強く思えた。
外見も神がかっているのに、内面まで神がかっているなんて、もうこれは神確定である。
私は「推しがいる人生は素晴らしい」と思うようになった。
今までは「誰かを推す」という経験が殆どなかったけれど、彼を推すようになってから、毎日がより楽しくなった。
推しの演奏を聴くだけで元気が出る。
ライブ映像を見ていると彼の努力や情熱が伝わってきて、自分も頑張らなければと思える。
彼が音楽活動に励んでいる姿を追いかけて、私も執筆を続けようと思う。
執筆活動は孤独なものだ。
自分の世界にこもりひたすら物語と向き合うのは、誰にも相談できることではない。
自分の頭にある世界観は、自分の頭の中にしかない価値観だから。
相談相手としてはAIに相談するくらい。
とはいえ、AIは私の頭の中の世界を再現する補助程度。
孤独な執筆作業も推しがいることで私はその背中を追いかけることができる。
推しの存在が私にとっての支えの一つになった。
今の目標はいつか本当に自分の小説を映像化し、そのバンドに主題歌をお願いすること。
そのためには、まず素晴らしい作品を生み出さなければならない。
もちろん、簡単な道ではない。
でも、推しがいることで頑張れる。
推しの音楽を聴きながら執筆を続けていれば、その夢に近づけるはずだ。
推しがいる人生は、本当に楽しい。
推しがいるだけで日々が輝いて見える。
「お互い頑張りましょう」
その言葉を胸に刻みながら、私は今日も物語を書き続ける。
推しのいない人生より、推しのいる人生の方が楽しいと気づいた 毒の徒華 @dokunoadabana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます