第31話 ヘイ、優!
「まさか、こんな解決法があるだなんて!」
「全く考えが及ばなかった!」
「優ちゃんって、天才⁉︎」
まぁ、ちょっとだけメカに詳しいってだけ。
美佳姉の七つ道具のなかにある、空撮用のドローン。ダンス動画の撮影のときも、もちろん大活躍だった。そのバッテリーがあと五本残っている。それぞれが一時間ほど保つ。愛がカメラを持たずとも、さくらに制御させればサイクリング中ずっと撮影してくれる。つまり、愛が著しく映らないということはなくなる。
そして、もう一つの問題については、四度ある休憩のうちの一度で食事を摂ること。その際には各組のリーダーが集まって一つの組を形成する。
「言われてみれば納得の布陣だね」
「五つの組では組める相手は最大で二十人」
「六組あれば、二十四人全員と組める」
「それを瞬時に計算して改善点を提示する」
「優様ったら、本当にイケメン!」
この場合、イケメンかどうかは関係ないと思うが、悪い気はしない。鼻を掻きながら言う。
「周遊コースを決めるには、地元民の愛の力が必要なんだ!」
「五人で食事のできるお店が五軒以上ある場所を見つければいいのね」
「うん。休憩がてら食レポしてもらいらいんだ」
「そーだなぁ。和田浦駅周辺なんかどう? でっかい鯨の全身骨格があるんだよ」
こうしてサイクリングルートが定まった。そして、四度目の休憩。
「でかっ!」「でかっ!」「でかっ!」……「でかっ!」
僕達はシロナガスクジラの大きさを実感した。
「白布ちゃんのこと、放っといて大丈夫?」
「恵、それは声を大きくして言わないと。危うく忘れるところだったよ」
「ヘイ、優! 来週、暇?」
月曜日。朝からハイテンションな八重洲。
「なんだよ、藪から棒に!」
「一緒に海ほたるに行くでやんす!」
「海ほたる? ちょっとパスかなぁ。今度の週末はまったりしたいから」
利用したばかり。巨大モニュメントに胸焼けしそうだ。
「ん? 昨日は忙しかったんでやんすか?」
「まぁ。まったりするのが普通だってことだよ」
「それはよくないでやんす! 高二の冬はもう二度とないでやんすよ!」
「で、海ほたる。どういう理屈だよ」
僕はもう充分に堪能した。アサリまんは美味しい!
「さては優、まだ見てないでやんすな? ドリステのデビュー曲MV」
「あぁー、MV」
「他にもあるでやんす。僕はやすっちとシロマルと麻衣たんのを観たでやんす」
「それで、海ほたるなんだね」
なんて分かり易い! 康子と白布と麻衣は、八重洲の推し。
「ん? 優も視聴済みでやんすか?」
「いや、観てないよ。数が多いからね」
「たしかに多いでやんす。MVの他に一人一本の動画があるでやんす」
「あぁ、『千葉・サイクリング編』だね」
第一弾は、海ほたるでの一幕。kそれぞれの特徴がよく録れてる。白布のは、海ほたるのカッターフェイスを観て立ち尽くす姿しか映ってないけど。
一本一時間で、合計二十一本。二十一時間以上の動画だ。撮影現場にいた僕にとっては、ほとんど価値のないもの。みんながどうしても観て欲しいっていうから、あとでまとめて観る約束をして逃げているけど、倍速でも一日ではとても観きれない。しかも、第二弾・第三弾……と、週末までアップ予定が入っている。
一人分を全部観るだけでも大変なのに、八重洲は三人分追ってる。ファンの鏡じゃないか。頭が上がらない。
「だよなぁ」
「時間も長いでやんす!」
「だよなぁ」
「でも、観てしまうでやんす!」
「楽しそうだなぁ」
「もちろんでござる。どの動画も編集が秀逸でやんす!」
「苦行じゃないの?」
「冗談! 二度目からはつい、〇.五倍速で観てしまうでやんす!」
「ガッ、ガン見じゃないか。二度目からって、何回観るのさ?」
「最低でも三回。観ていて飽きることがないでやんす!」
「そんなに観て、どうするのさ」
「時空を共有するでやんす! 細部まで観察しなければ失礼でやんす!」
「もう、ついていけないよ……」
「百万回視聴! それ、すご過ぎないか!」
帰宅路。さくらからの報告を受ける。
「いいえ、当然のことです。私が編集したのですから」
「動画は二十二本。平均すれば約四万五千。それでもすごいよね!」
「ご主人様、何を言ってるのですか?」
「えっ? 計算間違えた?」
「百万回は、累計ではありません。最低の視聴回数ですよ!」
「最低って?」
「誰かは言いませんが、最低は最低。最高は康子で、百五十万回突破です!」
「そんなに! みんな、暇なんだなぁ」
「ご主人様、失礼ですよ。皆様、忙しいなか、時間のやりくりをしてるのですよ」
「そういうものなの、動画視聴って?」
「はい。行動を分析した結果です。間違いありません」
「分析って、何をしたのさ」
「サンプルとして八重洲三郎・高校二年生の行動を観察いたしました」
「僕の友達を呼び捨てにするのはやめなさい!」
「Y氏はいつも長風呂で、平均で五十七分も入浴しています」
「意外に清潔なんだね。僕なんて二十分くらいだってのに」
「それなのに昨日は六分で終え、動画を視聴してます!」
「五十分以上短縮、だとぉ……僕には絶対にできない!」
結局、僕は八重洲のために働いているのかもしれない。
____________________
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
粘りましたが、しばらく休載いたします。
友達は多い方がいいと思う日もある、世界三大◯◯でした。
アイドル×ラブコメの次作を明日、七月三十一日にリリースいたします。
よろしくお願いします。
天然美少女はアイドルとしては天才ですが、姉としては天災です。そしてその後輩駆け出しアイドル達は僕の天使か天敵か⁉︎ 世界三大〇〇 @yuutakunn0031
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます