第七話・幼馴染との付き合い方

天川さんを見送った後、俺もまた自宅へと帰ってきた。

外から見た時に何故か俺の部屋には明かりが着いていたが……まあ、理由はお察しである。


「ただいまー……っと」


玄関を開けると一階に明かりはなかった。

母も朝から仕事がある時は早めに寝ている事もあるから、今回もそうなのだろう。

俺は静かに廊下を移動すると手早くシャワーを浴びた後、寝間着に着替える。


後は……そうだな。麦茶でも持っていくか。


麦茶を入れたポットを取り出そうと冷蔵庫を覗いてみれば、白い紙箱が一緒に置いてある。


「……流石に一気に持っていけないな」


二人分のコップを棚から取り出し、そのまま二階の己の部屋へと向かった。


「………おっかえりー香坂。ゆっくりしてまーす」

「おう、お茶持ってきたから入れといて」

「おっけー。ちょうど喉も乾いてたんだよねー」


扉を開ければ、偉くリラックスした態勢で高町がベッドに寝そべっていた。

ポテチの袋をベッドの上に広げ、漫画を読みながらポテチを食べていた様だ。


「お前……俺を待ってる間にもまあこんな…」

「お菓子はね、別腹なの。そんでもってあたしは…太らないっ」

「太らないっつうか太らせないって感じじゃね?」


そんなに食べて、そのカロリーは一体どこへと向かっているのか相変わらず疑問だ。

何時も朝一でジョギングしてるにしても、どうみても過剰カロリーの様な気もするけど……まあ、本人が言うなら別にいいけど。


「そういえばさ香坂。あの子とは仲がいいの?」

「ん?天川さんのこと?」

「そうそう、今日一緒にいた子の名前だよね」


ベッドから身体を起こしながら、高町は俺からお茶とコップを受け取る。

それぞれのコップに並々とお茶を注ぎながら、天川のことについて俺に尋ねてきた。


何かデジャヴなんだが。


「バイト先で俺が指導役なんだよ。だからバイト中も大体一緒でさ」

「へー……」


注いだばかりの麦茶が入ったコップを口に運びながら興味なさげな声を出していた。

いや、聞いたのお前だろうに。


それから、妙な沈黙が続く。

ベッドに腰掛けたまま麦茶をちょびちょび飲み続けている姿に気まずさを憶え、窓際に座った俺も気を紛らわす様に注いでもらった麦茶を飲んでいた。


「香坂がさ」


不意に高町が口を開く。


「俺が?」

「ん。万が一、いや億の一も、あんな可愛い子からデートの誘いがあるとは思わないけどっ」

「ひでえ言い草だなおい」


余りの言い様に思わず笑ってしまったが、不意に視界が暗くなった。


「………おい」


ベッドから立ち上がった高町が、胡坐を搔いていた俺の膝に背を向けて乗ってきた。


「……座り難い。ちょっと足の間開けて」

「急に来たと思えば我儘な」

「うっさい。早く開けて」

「はいはい」


胡坐を掻いていた足を少しだけ外側に広げる。

そんでもって出来た真ん中のスペースに、高町はお尻を入れるようにして座り直す。


「……ふいー、極楽極楽」

「俺は風呂だった…?」


そのまま身体を預けてきた高町の様子を覗き込もうとすると手で顔を塞がれる。

動いた拍子に指先が口に触れると、しょっぱい味が口の中に伝わる。


「ポテチでベタついてんだけど」

「美少女百合ちゃんの御手に触れて貰った感想がそれってどうなの?」


美少女だろうが何だろうが関係ない。汚れは皆汚れである。

顔を見られたくないんだろうな、と何となく思いながら俺の顔を覆う手をどかした。


「もう見ようとしないよ」

「…じゃあしない」


覗き込む事を諦めた俺はされるがままである。

だが高町も、妙に静かだ。何時もなら人の上だろうが構わずはしゃぎまくると言うのに。


「…………あの子、香坂を特別な目で見てる」


唐突に高町は呟いた。

どこか不貞腐れた様な、気に入らない相手のことを話す様に低い声色だった。


「……何だよ、嫉妬か?」

「嫉妬?ああそうかもね、嫉妬かもねっ」


まあ確かに天川さんは妙に俺に対して好意的…に見えるかもだが。

ここまで露骨に機嫌の悪い高町を見るのも久々だった。


「この女たらしめ」

「そんなつもりはないんだがなぁ……」


本当にそんなつもりはない。結果的にそうなるのはともかく。

そして、とぼける様に言葉を返してみれば高町の機嫌はますます悪くなる。


「は?何それ。気分はラブコメ主人公かな?ん?んん?」

「あ、やばい。これは本気で機嫌が悪い奴だ」


ちょっと調子に乗ってしまったかもしれない。


「…えーと、どうすればいい?」


俺は要求を聞く事にした。

彼女の機嫌が元に戻る手段が思い付かないからだ。


「………ちょっとは考えたらー?」


俺の考えていた事はお察しの様だった。

高町はそのまま見上げる様に顔を上げ、俺と視線を合わせた。


ジットリとした視線に思わず目を逸らしてしまうが、俺の膝の上にふんぞりかえるこの女はお構いなしと言わんばかりに、無理矢理身体の向きを変えてきた。


ちょ、膝が、無理矢理水平に!


「全体重乗せるなよ痛いだろ!?」

「はあ?重くないが?軽いがあたしは?羽毛の様に軽いがあ?」

「そう言いながら膝の上で肘を突き立てるなわざとか!?」

「わざとだよ!今日はそのままあたしの抱き枕になれ!この……なれ!!」

「おまっ」


わちゃわちゃとした俺達の攻防だが、一応の決着は着いた。香坂 亮の敗北である。


いや、だからって本当に抱き締めて寝る奴があるか!

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ラブコメしてると思ったら、俺達は血に染まる。 @coreboon1994

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