第8話 もう一度、恋をする

私は今まで、「怜司さんは他人だ」と思い込んでいた。

でも、そうじゃないのかもしれない。


胸の奥が、ぎゅっとなる。

この感情はなんだろう。


「思い出したい」そう思ってる。

いや——違う。


もう一度、恋をしたい。


私はあのメモを読んだとき、怜司さんが私をこんなにも大切にしてくれていたのに、私は何も覚えていない。


その事実に私は、悔しい気持ちと切ない気持ちが混ざり、どうにか解消したい。


そこで私は自問してみた。今の私はどうしたいのか。


私は、千沙さんには戻れない。でも、怜司さんが気になる。


私はもう一度、怜司さんを知りたい。


私は、リビングにいる怜司さんのもとへと駆けつけた。



「怜司さん…!私、あの…」


「うわ!え、えと、どうしたの?そんな慌てて」


自分では気づいていなかったが、私は自分が思っているよりも慌てていたらしい。


「私は千沙さんじゃないかもしれない。だけど…」


怜司さんが私の言葉を待っている。ここまできたら、言うしかない。


「あなたが好きだった千沙さんを私も知りたいです…!!だからその…一緒にまたあのカフェに行きませんか!」


怜司さんは、微笑み、いいよと言ってくれた。



まずは、車の中で音楽を聞いてみる。


「千沙さんは、カフェに向かう道で、どんな音楽を聞くのが好きだったんですか?」


「千沙はね…えっと…」


そう言って、袋の中をごそごそとし、あ、あった!と言って出したのは、


”夏休み”であった。


「この曲ね、めっちゃラブソングなんだよね。でも、夏休みの長い間に二人で会える期間がたくさんあるから、二人だけの時間を過ごせて幸せだね、だからこの夏休みがずっと続けばいいのになって歌なんだ。…まあ説明全部千沙から受けたものなんだけどね(笑)」


「流してみましょうよ」


怜司さんは、CDを取り出し、機械の中に差し込む。歌や音楽は爽やかな感じで、何回も聞いていられそうなものだった。



ついに、カフェに着いた。


私は、怜司さんに千沙さんの好きだった食べ物を聞くと、ハムエッグチーズサンドとアイスココアらしい。


「え、これって…」


私が自然に前回頼んでいたものだった。そうか。これは、千沙さんが好きなものだったんだ。


「ちなみに、怜司さんは?」


「コーヒーと、チーズケーキだよ。あとはね、二人でいつもストロベリーマカロン食べてたよ。半分ずつ分けて食べてた(笑)」


「ふふ。仲がいいんですね。なんだか私…」


その後に言う言葉は決まっていた。


「怜司さんのことを、もっと知りたいです。いつか私は思い出すかもしれない。だけど、それよりもあなたとのこれからの時間を大切にしたいです。」


怜司さんは、涙を浮かべ微笑み言う。


「”初恋”じゃないけど、”最初”から始めよう。」

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もう一度、君を思い出すまで @_harunohi_143

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