ひなあられと少女の物語

辛巳奈美(かのうみなみ)

ひなあられと少女の物語

春の光が柔らかく差し込む午後、少女は祖母の家の縁側に座り、目の前に広がる小さな庭を眺めていた。庭には、桃の花が咲き誇り、その優しいピンク色が、春の訪れを告げていた。

少女の名前は、杏。彼女は、毎年ひな祭りの時期になると、祖母の家を訪れるのが恒例だった。祖母の家には、立派な七段飾りの雛人形が飾られ、色とりどりのひなあられが用意されていた。

「杏、ひなあられ食べるかい?」

祖母の声に、杏は笑顔で振り返った。

「食べたい。ありがとう。」

祖母は、ガラスの器に盛られたひなあられを杏に差し出した。杏は、その小さな粒を手に取り、じっと見つめた。ピンク、緑、黄色、白。色とりどりのひなあられは、まるで小さな宝石のようだった。

「おばあちゃん、このひなあられって、どうしてこんなに色がたくさんあるの?」

杏が尋ねると、祖母は優しく微笑んだ。

「昔の人はね、春の景色をこの小さな粒に閉じ込めたんだよ。ピンクは桃の花、緑は若葉、黄色は菜の花、白は雪。そう、ひなあられは、春の喜びを表現しているんだね」

杏は、祖母の言葉に目を輝かせた。ひなあられには、そんな素敵な意味が込められていたのか。彼女は、改めてひなあられを口に運んだ。サクサクとした食感と、ほんのりとした甘さが、口の中に広がった。

「おいしい…」

杏が呟くと、祖母は嬉しそうに頷いた。

「そうだね。ひなあられは、春の味だね」

二人は、縁側に並んで座り、ひなあられを食べながら、穏やかな時間を過ごした。庭では、小鳥たちがさえずり、春の風が優しく頬を撫でていった。

日が傾き始め、空がオレンジ色に染まる頃、杏は祖母の家を後にした。帰り道、彼女は手に持ったひなあられの袋をそっと開けた。夕日に照らされたひなあられは、キラキラと輝き、まるで魔法の粉のようだった。

杏は、ひなあられを一つ口に入れた。春の味が、再び口の中に広がる。彼女は、今日祖母から聞いた話を思い出しながら、ゆっくりと家路を辿った。

ひなあられは、ただのお菓子ではない。春の喜び、自然の美しさ、そして家族の温かい思い出が詰まった、特別なもの。杏は、そう思った。

そして、来年のひな祭りも、また祖母の家で、一緒にひなあられを食べようと心に誓った。

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ひなあられと少女の物語 辛巳奈美(かのうみなみ) @cornu

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