夢ではそうだった。

倉沢トモエ

夢ではそうだった。

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


「それはどうかな」


 この人はいきなり否定から入るんですよ。困ったな。


「夢なんて覚えているわけないじゃない。起きてからなんとなくそんな気がするだけだよ」

「ほら」


 私だってもうここで負けたりしないんだよ。だって9回目だもん。


「ほら、って何さ」

「そのセリフも夢で言われたんだよ」

「またまた」


 この人も引かないんだよな。


「夢なんて覚えているわけないじゃない。起きてからなんとなくそんな気がするだけだよ」


 同じこと繰り返されたよ。


「それにしたって、少しは喜んでくれたっていいじゃないか」

「なんでだよ」

「あなたの夢を、9回見たんだよ?」


 やった。言葉をなくして赤面した。


 私たちはこれでも付き合いはじめて二週間のカップルである。


   ◆


 とはいえ、ロマンティックだったりステキだったり、そういう夢じゃないのよ。


 私は普段通りに起きて、朝ごはんを作っている。

 パジャマのまま。

 なのにふと時計を見ると一限目に間に合うギリギリのバスに遅れそうな時間になってて、私はガスの火を確認するだけで家を飛び出すのである。

 パジャマのまま。


 パジャマのまま私はバスに乗っている。

 でも誰もそのことに突っ込まない。夢だから。


「おはよう」


 ここであなたが出てくるのよ。


「おはよう」


 一限目ギリギリにすべり込んだはずなのに、なんだか余裕がある。夢だから。


「またこの教室来たんだな」


 あなたはなんだかよくわからないことを言う。夢だから。


「ここは眼精疲労、胃腸虚弱、睡眠不足といったところなんだ」


 夢って、へんなこと言われるよね。夢だから。


「あんまりここに来るもんじゃないぞ。ゆっくり休めよ」


 そうすると、私はベッドから転がり落ちて、毛布の隙間から這い出している。夢だから。


   ◆


 そんな夢を見たと話すと、あなたは言うんだ。


「夢なんて覚えているわけないじゃない。起きてからなんとなくそんな気がするだけだよ」

「ほら」


 私だってもうここで負けたりしないんだよ。


「ほら、って何さ」


 あれ。


 見ると私、パジャマ着てるのよね。


「それにしたって、少しは喜んでくれたっていいじゃないか」


 どこかで聞いたようなことを今は私があなたに言われている。


 あれれ。


 これは何回目かな?

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夢ではそうだった。 倉沢トモエ @kisaragi_01

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