私に必要だったのは彼氏ではなく彼女だったらしい

橘スミレ

第1話

 百均で買った和柄の折り紙で雛人形を作る。色鮮やかな紙を動画を見ながら折っていくと不恰好ながらも雛人形と判別できる形にはなった。同じく百均で買ってきた籠に並べて寝かせれば流し雛の完成だ。ペラペラで頼りないが、今は彼らに縋る他ない。


 流し雛という風習がある。三月三日、桃の節句の日に紙なんかで作った雛人形を川で流す行事だ。雛人形を身代わりにして、自分の厄を代わりに背負ってもらって流すらしい。

 制作費二百円の安っぽい形代だが、きっと私の厄を引き受けて川を降りてくれる。そう信じる他ない。でなければ……また、彼氏に浮気されてしまう。


 私という人間はつくづく男を見る目がないらしい。そして浮気されやすい体質らしい。

 高校二年の今日になるまで合計八人ほどの男性とお付き合いさせていただいた。その全員が浮気した。

 始まりは小学校5年生。バレンタインの日に告白して、OKをもらって付き合い始めた。だが実はこの彼、別に本命がいて私の告白の後にその子に好きと言われてその子とも付き合いだしたのだ。一ヶ月後のホワイトデーに浮気が発覚、即破局。

 その次の人も、二ヶ月で浮気が発覚して別れた。その次は二週間。しかも三股だ。毎度毎度、三ヶ月も経たないうちに浮気されて別れるのが当たり前になってきていた。

 それでも今年なんかは酷かった。バレンタインチョコを私に言ったら別の女子に告白されて、了承したところだった。目の前で堂々と浮気されると今まで以上に心に来るものがあった。その日は持っていたチョコを投げつけ別れると宣言して帰った。せっかく彼のためだけにチョコを作ったのに。ラッピングも頑張ったのに。無意味だった。それからずっと会話していない。目も合わせていない。


 まあこのように私は浮気されやすい人間だ。けれど恋はやめられない。

 優しくするのも優しくされるのも好きだ。誰かに特別扱いされるのも、誰かを独り占めするのも、愛し愛されるのも全て大好きだ。

 人は人を愛するために生まれてきているんだ。恋をして人を愛して何が悪いっていうんだ。悪いのは私の想いに応える気がないのに了承し、その上私を振る前に新たな恋人を見つける元カレ共だ。私と別れるなと言っているわけではない。ただ筋を通せと言っているだけだ。

 だが元恋人の男たちは、全く情けないことに別れを切り出す勇気のない愚か者だった。その程度の覚悟で恋してんじゃない馬鹿野郎と口汚く罵っても気は晴れなかった。真摯に向き合ってくれる恋人もできなかった。


 こうなっては仕方がない。神にでも頼るしかなかった。

 三月三日は雛祭り。桃の節句ともいうこの日は女の子のための日だ。きっと私の背負う厄を落とすのにちょうどいい。

 近所の川に行って、少しだけ期待して、ちょっとだけ諦めながら雛人形を流した。さらば二百円。こいよ私が愛すべき人。


 川に行った次の日、早速効果があった。

 比較的仲良くしていた後輩に告白された。一学年下の、後輩の、女の子に告白された。ゆるく巻かれた髪の可愛い女の子だ。


「先輩のことがずっと大好きでした! 付き合ってください」


 可愛い少女に今までで一番ストレートに気持ちを伝えられて正直面食らった。今まで話の会う中の良い可愛い後輩だと思っていた。恋愛対象として見たことはなかった。何もしていない私なら断っていただろう。しかし、私には前日の出来事があった。厄を落とした結果がこれなのではないか。神様からのメッセージではないのだろうか。この子の可愛さは天使級だから実質的に神の使いみたいなものだし、神様がこのシチュエーションを作ったのではないだろうか。

 私は妄想と共に迷ってしまった。だからだろう。


「今まで考えたことがなかったから、少し時間が欲しい。三ヶ月、考えさせてください」


 先輩として情けなさすぎる返答をした。受けるか受けないのかハッキリさせるべきだとはわかっている。けれど、答えを出せなかった。それくらい状況が完璧すぎたのだ。

 私と比べてしっかりしている後輩は私の煮え切らない答えにも嫌な顔ひとつしなかった。


「三ヶ月で絶対に先輩を落として見せます!」


 そんな頼もしいことまで言われてしまった。この後輩、可愛いだけじゃなくてイケメンすぎる。やっぱりすぐにでも受けるべきだったのでは、とこの時点から考えはじめていた。


 あれから三ヶ月。私は後輩ちゃんに骨抜きにされていた。

 一緒にデートに行く時は私より何倍もしっかりした予定を立ててエスコートしてくれた。完璧なプランと臨機応変な対応の後輩ちゃんがいつも以上に頼もしく見えた。

 部活から帰るときには自然と甘えてくれて甘やかさせてくれた。適度に愛させてくれた。

 この「愛する」と「愛される」のバランスがちょうどよくて、三ヶ月経つ頃にはベタ惚れ状態だ。


「先輩、私と付き合ってくれますか?」

「もちろん! これからよろしくお願いします!」


 先日、無事にお付き合いを始め、後輩ちゃんから彼女になった。

 彼女サイコーだ。私が求めていたのは彼氏ではなく彼女だったらしい。

 そのことを私に気づかせ、適切なシチュエーションを整えてくれたあのお雛様たちも末永く幸せでいてほしいものだ。

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私に必要だったのは彼氏ではなく彼女だったらしい 橘スミレ @tatibanasumile

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