第16話 魔法
「見えなき鎖よ、汝を束縛せよ」
リタがそう唱えると、魔獣の体が一瞬にして黒い魔法陣から出てきた白色の鎖によって拘束された。これが魔法というものなんだろうか。
カルラと戦闘していた魔獣も同じようにリタが召喚した白い鎖に拘束され、身動きが取れなくなっている。
「カルラ――、力を貸してくれ!」
俺の言葉を聞いてカルラは頷くと、地面を強く蹴り上げこちらに駆けてくる。手の刻印をそっとなぞると脳裏に言葉が浮かんでくる。
「我が名において、万物を滅する力を顕現せよ。火を放て、カルラ!」
俺が叫ぶと、カルラは翼を広げて火を放つ。火は地面に拘束されている魔獣に向かって飛んでいく。そして、魔獣を燃やす。
だが、魔物を殺すまでには至らない。焼かれた体はすぐさま再生する。
「アル、わたしの手を握って!」
リタはそう言って俺の手を強く握りしめてくる。俺はそれに応えるように握り返す。すると、体の底から何か熱いものが込み上げてきた。
「わたしは魔女、不死身の魔女――、リタ・アルベリア。わたしの力を解き放て、全てを滅する力を今ここに!」
そう言って、リタは俺の体を抱きしめると唇を塞ぐ。口の中に彼女の舌が侵入してくると同時に、手の刻印が激しく輝き始めた。
そして、頭の中に言葉が浮かんでくる――。
「「鎖の束縛」」
魔法陣から現れた白い鎖は魔獣に巻き付き再度拘束する。先程よりも黒い魔法陣の規模は大きくなっているように感じる。
「汝、我が命に従うものなり。我、汝の主として命ずる。その力を持って、闇を払え、浄化せよ」
リタがそう唱えると魔獣の体に大きな白い魔法陣が現れる。そして、その魔法陣から放たれた白い光が魔獣を包み込むと、魔獣は「灰」になった。
灰になったそれをリタは手で掬い上げて、地面にそっと置いた。
「これで、本当に終わったんだよね……」
リタはそう言ってこちらに向き直ると、小さな笑みを浮かべる。彼女の瞳には涙が浮かんでいた。そんな彼女を見て、俺は何も言わずにリタを抱き寄せた。
彼女は俺の胸の中で静かに泣いていた。
「わたし、これからどうすればいいかな……」
そう言って、リタは力なく笑う。その笑顔からは不安しか感じなかった。俺はそんな彼女の頭をそっと撫でる。すると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。
「ちゃんと帰る場所を用意してやる」
俺の言葉を聞いて「でも……」と彼女は呟いた。おそらく、俺に迷惑をかけたくないとでも思っているのだろう。
「実は俺さ、記憶がないんだ。どっから来たかも分からずにここにいる。何をすればいいのかも分からない。だから、今のリタと一緒だ」
俺の言葉を聞いて、彼女は少し驚いたような表情を浮かべている。
「だからさ、似た者同士。これからもさ、一緒にいよう」
「うん、ありがとう……」
リタは泣きながら笑う。そんな彼女を俺は優しく抱きしめた。彼女の細い体を抱きしめながら、彼女の背中を優しく撫でた。
動物園の飼育員、異世界転生して最強テイマーになる。 ともP @sagu_sakura
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