第15話 不死の呪い
カルラは先程から喉を鳴らして魔獣を威嚇している。攻撃を仕掛ければ、すぐに飛びかかってくるだろう。俺は拳を握り締めて、魔獣を睨みつける。
リタは地面にへたり込んで呆然としている。両親が魔獣になってしまったという現実が受け入れられないのだろう。
「キュイ!!」
カルラの叫び声に俺はハッとする。そうだ、今はとにかくこの状況をどうにかしなければならない。
痺れを切らしたのが魔獣がこちらに飛びかかってくる。カルラがその巨体で魔獣の攻撃を防ぎ、爪を振うと魔獣は吹っ飛ばされていった。
「キュイ!!」
カルラは俺を庇うように立ちふさがる。そして、再び襲いかかってきた二体目の魔獣に向かって火球を放つ。しかし、それは簡単に避けられてしまう。
再び火球を放つがそれも避けられる。すぐさま、カルラは先程と同じように爪を振り下ろそうとすると、魔獣は危険を察知したのか後ろに飛び退いた。
すると――。
突然、背後からの衝撃に俺の体は吹き飛ばされた。
「――っ!?」
地面に叩きつけられながらもすぐに立ち上がる。どうやら、先程吹っ飛ばされた一体目の魔獣が俺の背後に回り込み攻撃してきたらしい。
俺が体制を立て直す前に魔獣が突っ込んでくる。その時だった――。
「もうやめて!!」
そう叫びながら俺のことをリタが突き飛ばす。地面に倒れ込んだ俺は慌てて体を起こすと、そこには魔獣の牙に貫かれたリタの姿があった。
「リタ!!」
俺は急いで駆け寄り彼女の体を抱き上げる。傷口からは大量の血が流れている。普通なら助からない。そう普通なら……。
――不死身の魔女。
そう呼ばれた彼女は瀕死の重傷を負っても生きている。傷口は段々と塞がっていき、血が止まっていく。本当に致命傷を負っても平気らしい。
だが、たとえ死ななくても、痛みは感じるし、何よりも彼女の心はもう折れてしまっていた。諦めたような表情を浮かべながら、
「わたし、もう……、死にたい。でも、死ねない……。もう、帰る場所もなくて、生きる意味なんてないのに、死ねないんだよね……」
リタは涙を流しながらそう呟く。俺はそんな彼女の頭を撫でた。
なんでだよ。心の中で俺はそう思った。なんで、彼女だけがこんなにも苦しめられなきゃいけないのか。心にも体にも傷を負って、生きる理由も失って……。
何もできない自分が悔しくて仕方なかった。
「死にたいなんていうなよ……。帰る場所がないっていうなら、作ってやる。生きる理由も、帰る場所も作ってやる。だから、ちゃんとリタの両親を弔ってやろう」
俺は諦めたように顔を伏せるリタを抱きしめながらそう言った。
「無理だよ、もう……」
リタはそう小さく呟くと、俺の腕の中からすり抜けようとした。しかし、俺はそれを許さなかった。彼女の体を抱きしめる腕に力を込める。
すると、リタは諦めたのか抵抗をやめた。
「離して……、もう嫌なの」
「離さない」
「どうして?」
「リタに生きていて欲しいからだ」
俺の言葉に彼女は驚いた表情を浮かべる。すると、手の刻印が光を纏い、リタの体を包み込んでいく――、
顔をあげた彼女の表情は驚きからゆっくりと笑顔に変わっていった。
「暖かい……、すごく」
「そうか?」
リタが俺の体に抱きつきながらそう言う。俺も思わず笑みを浮かべた。先程までの諦めたような空気はもうそこにはなかった。
「ありがとう、アル。わたし、生きるよ。ちゃんと、お母さんとお父さんを弔ってあげる。あんな醜い姿のまま放っておけない」
「あぁ、そうだな……」
俺はリタの体から離れるとお互いに立ち上がった。
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