第14話 魔獣


 俺とリタは急いでリタの家がある方角へと向かった。目的地が近づくにつれて、爆発音のする頻度が高くなっている気がする。


「あそこの角を曲がったところがわたしの家――」


 リタがそう言った瞬間、立ち昇る黒煙の中から大きな影がふたつ飛び出してきた。体長は五メートルほどだろうか。鋭い牙を持つそれはまさに魔獣そのものだった。


「お父…さん……、お母……さん……?」


 リタは信じられないといった表情を浮かべる。


 あの魔獣はまさかリタの両親なんだろうか。人間としての面影はもうない。


「リタ、しっかりしろ。あれはリタの両親なのか?」


 俺は泣き叫ぶリタの肩を掴み呼びかける。しかし、俺の言葉は全く届いていないようだった。どうするんだ、この状況……。


「お父さ……ん、お母さんを……返して……」


 リタは涙を流しながらそう呟く。そんな姿を見ていられずに思わず目を逸らした。そして、その瞬間だった――。


 突然現れた黒い影が俺に向かって襲いかかってくる。そのスピードは凄まじく反応が遅れてしまったため、避けることができないと思ったその時だった――。


 カルラの巨体が俺と影の間に割って入り、その攻撃を防いだ。カルラの爪と影の牙がぶつかり合う音が響き渡る。


「キュイ!!」


 それを魔獣の攻撃だと認識するのに時間はかからなかった。どうやら、俺は魔獣の攻撃を防いだカルラに救われたらしい。


「ありがとうな、カルラ」


 俺がそう言うとカルラは嬉しそうにキュイっと鳴いた。本当に頼りになるやつだ。そんなことを考えていた時だった――。


「なるほど、なるほど。商品としては良く利用できそうですね、これは……」


 突然聞こえてきた声。それは、落ち着いた口調の男性の声だった。声のする方に視線を向けるとそこに立っていたのは神父のような格好をした男が立っていた。


「リタの両親を魔獣に変えたのはお前か?」

「えぇ、私ですよ」


 神父服の男は口元に笑みを浮かべながらそう答える。俺は拳を握り締めて、男を睨みつけた。


「その瞳良いですね。憎悪に満ちたその瞳、実に良い」

「黙れ!」


 俺は神父服の男に向かって駆け出す。しかし、そんな俺の行く手をカルラが遮る。カルラに視線を向けると首を横に振っていた。


「キュイ!!」

「山を越えたあたりの集落で祀られていた神獣ですね。そんな大物を従えているということは『上位級のテイマー』といったところですか、実に珍しい」


 そんなカルラの視線の先にはリタがいた。彼女は地面にへたり込み完全に放心状態になってしまっている。


「どうやら、あなたはそのお嬢さんにご執心のようですね」


 男はそう言ってリタを見る。


「呪われし、魔女。それが彼女の本質である。不死身の魔女というのは悪魔が与えし、呪いだ。だから、魔女の血を魔獣は好み、魔女の血を飲めば魔獣になる」

「お前は何者だ!」

「これは失礼いたしました。私としたことが自己紹介がまだでしたね。私はこの近くにある『魔術教団』の司教をしている者です。名を『シュラウド』と申します。以後お見知りおきを……」


 そう言うと、神父服の男――シュラウドは不気味に笑って見せた。


「魔術教団だって……?」

「おや、ご存知ありませんか? 王都では有名ですがね。もちろん、悪い意味で」


 シュラウドはニタニタと笑いながら、二体の魔獣に近づいていく。


「では、これで失礼いたしますよ。また会う日まで、お元気で。まあ、この魔獣に殺されなければの話ですが……。まあ、不死身の魔女だけは死にませんがね」


 シュラウドはそう言い残し、消えていった。


「ま、待て!」


 俺の言葉は虚しく、シュラウドには届かなかった。一体どうすればいいんだ……。魔獣は依然として、俺たちの目の前に立ちはだかっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る