【KAC20251】パパ上様日記 ~散々なひな祭り~
ともはっと
ひな祭りとは
ぽっぽっぽっと。
小さなかがり火が炎を灯していく。
ぱちぱちと音を立てて暗闇を照らすかがり火は少しずつ多くなっていく。大きな円を描いてすべてのかがり火が灯るが、大きな円だからこそ、辺りをいくら灯しても、その中心地までは火の光がうっすらとしか届かない。その円の中心の空には、大きな鳥のような物体がある。どれほどまでの大きさなのかは、空まで届かない光では見ることができない。
だけども、四方八方から暗闇を食らった灯火が辛うじて照らすその中心に、
人が一人、立っていた。
立烏帽子の水干姿。
赤い長袴はどことなく装束さを見せ、手には蝙蝠と呼ばれる扇子をもって立っている。
扇が開かれ空を仰ぐ。
長い水干の裾は人が動くたびにゆらりと揺れる。まるで優雅な流水のようであり、その人の動きがゆるやかな動きから荒々しく動くと、宙を舞う龍のようにくるりくるりと人の周りを円舞する。
その人が動く――舞うようにくるくると回るたびに、辺りに一陣の風が吹く。その風は遠いかがり火の火を揺らし、小さな火の粉を散らしていく。
その火の粉はやがて人の周りにもぽつぽつと降り注ぐようになり、龍となった裾が火の粉を蹴散らすように消し去っていく。
火の粉の光が辺りを照らしては、龍によって食べられていく。
舞が最高潮に達したときには、辺りは一面火の粉で真っ赤に染まっていた。火の粉を纏い、空から火の鳥となった物体が落ちてくる。
その舞は、まるでその鳥へと奉納するかのような舞。
熱く、力強く、そして辺りを照らしては燃やすかのように。
火の鳥を作り上げた火の粉は、辺りの暗闇を照らした。暗闇は消え、その人の姿が露わになっていく。
その白拍子は――
「――とまあ、その踊ってる白拍子が、な。パパ上でなければ、きっと映えたんだろうなぁって思うわけだ。そもそも、白拍子って平安中期の女性の職だった気もするんだが。……途中トリの降臨が行われた時は、どれだけカクヨム中毒なのかと思うほどだ」
「……それどこでやったの?」
「ん? いや、やったことはない。夢の中の話だ。リアルで舞ったことがあるかという質問であれば、獅子舞くらいはやったことはある」
「へー」
興味がない。
まさにその一言に尽きるような「へー」を頂いた私は、ぽりっと頬を掻いた。掻いた頬が、まさかの吹き出物があって、見事にぷしゃっと潰れていろんな液体が出てきてしまったのはまたどうしたものかと思う。
その夢を見たのは三月三日。つまりひな祭りの日。
目覚めた時から嫌な予感はしていたのだ。
今日は休みなのに、妙に胸騒ぎがする、と。
午前中は会社の電話とLINEメールがひっきりなし。当たり前のように休みの相手にも連絡してくる我が勤め先の輩ども。
休みなのに休みでないという状況は、本当に勘弁してほしい。
これがブラックの一歩手前なんだと思う。夜中も叩き起こしてくるしね。むしろこの世にホワイト企業というものは存在しているのだろうか。いや、ない。あったとしてもないと思うことにしよう。ぐすん。
午後も会社から電話。そんなに私に聞いてどうするのか。私はその話を知らないのだが。なぜ知っていると思うのか。電話越しの相手に、隣にいる人がその連絡を受けていたことを聞いて、詳細を聞いてもらうことですべてが解決する。
なのに、なぜ。
私に連絡してくるのか。ちょっと嫌がらせを感じる今日この頃。
「散々だったね」
ああ、散々だった。 その上、見た夢を話してみたら、子供たちからの興味のない「へー」である。
妻の労わりにじんわりする。特に肩に張った温湿布が。
いや、もちろん、そんなの聞いたところで思春期真っ盛りな子供らが、「凄いやっ! パパ上様踊れたんだね! え、そうなの? 舞ったりできるとか、どういった舞なの? 豊穣を祈願する舞とかなの? だったらこんなとこで踊っちゃダメじゃん! ぱんなこったに祈っとけよ!」とかなんか興味を持たれて言われても困るのは確かである。
だから、それでいいのかもしれない。
むしろ、そんなことよりも。
その散々な一日というのが、
「そのひな祭りである三月三日が、なぜか厄日かのように休ませてくれなくて。その日がまた私の誕生日の日であったってことが、私らしいというか」
私の誕生日であった、ということが、なにより散々であったのかもしれない。
ひな祭りが誕生日なんだから、その日くらい、休ませてくれよぅ……
といったところで、休める為しが無いんだけども。
これが、中間管理職の、悲劇である。
皆さんも中間管理職にならないように、気をつけましょうね
(どういう意味!?)
【KAC20251】パパ上様日記 ~散々なひな祭り~ ともはっと @tomohut
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