何年かぶりのひなまつり~五人囃子の私視点~
シンシア
「笛」
珍しく音がした。自分たちへ向けられた声だったから聞こえた。目の前の薄布越しに聞き耳を立てる。どうやら何年かぶりの出番らしい。
──ガタガタガタ……。
その言葉、機会を待っていたのは何も私だけではなかった。触れ合う体からはみんなの喜びが伝わってくる。てっきり今年も出番はないものだと思っていたので準備も何もしていな……。いや、準備なんかとっくに出来ているとも。
隣の爺様なんか利き腕ではない方で弓を引く練習をしていた。その技術を使うか否かはさておき。私だっていつ出番があってもいいようにと、一日たりとも笛の練習を欠かしたことはない。早く笛を吹かせておくれ。あの舞台に乗せておくれ。そして貴方の成長を願わせてほしい。
強烈な光が眼を突き刺した。体を優しく持ち上げられると薄布を外される。それから烏帽子を被せられて脇差を託される。最後は私のあの。期待とは裏腹に持ち物はそれっきりで御雛壇の三段目へ丁寧に置かれた。違和感を胸にしまいこみながら、隣を見ると彼もまた自慢の鼓を持たされていなかった。その隣は持ってる。そのまた隣は……持っていなさそうである。
すると、下の四段目からは「ホッホッホ……」と笑い声が聞こえてくる。流石爺様。弓を逆の手に持たされているが気にもしていない様子だ。まさか練習の成果が出るとは。
そんなこんなで何年か振りの大仕事の場が整うとちらほら人が集まった。当時の幼子であろうか。その中にはもう女の子だなんて言葉が、失礼に感じてしまうような綺麗な女性が一人。もうこれが最後になるかもしれないという声。
そんなこと……。いつまでだって女の子は女の子。また、こうして気が向いた時にでも出して見に来てくれればそれだけで。
笛なんかなくたって、持ち方が少し違うからって、そんなのは些細なことだ。私たちはいつまでも貴方の味方。これからも共に成長を祝い、見守らせてほしい。
でも、笛を失くしているのだとしたら、どこかで買ってきて欲しいかな!
嬉しさとやるせなさ。この微妙な感情を音にしたいという高ぶりを燃やしていると、男の人が一人やって来た。たしかあの女性の兄にあたる人物だ。彼は私のことを見ると口を開く。
「金爆五人囃」
何年かぶりのひなまつり~五人囃子の私視点~ シンシア @syndy_ataru
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