物語の冒頭部分から、作品世界を満たす「幻想的な美しさ」に惚れ惚れとさせられました。
「空を泳ぐ魚」がいる土地。そこでそんな魚たちの姿をスケッチしようと決めた画家のエルマ。
だが、空を泳ぐ魚が生息する港町オルヴィスにおいて、魚たちがどのような扱いを受けているか。
美しさを感じていたエルマにとって、そこには悲しい現実が……。
人間にとって魚とは何か。種類によっては、ただひたすらその美しさを愛でられるものも存在はする。
でも、他の多くの魚は?
誰かにとっては美しく鑑賞すべき対象であっても、他の誰かにとってはそうでないかもしれない。
そこには「生きる」という言葉がある。綺麗ごとではどうにも片付かない事情もある。
そんな現実を前にして、エルマは何を感じ取るか。
切なさや儚さが強く漂い、作品世界の幻想的な美しさに更なる彩りを与えてくれる本作。強い感興を持って読者の心に刺さるものとなりました。