第18話 裏切り者の全て

 鷲見が対峙した裏切り者の正体、それは大宮署の組織犯罪対策課に所属するベテラン刑事、佐竹だった。どことなく田中邦衛に似ていた。佐竹は長年、大宮の裏社会を監視し、数々の犯罪組織を摘発してきた実績を持つ、誰もが認める優秀な刑事だった。

しかし、その裏で佐竹は、大宮会の会長、大宮巌と深い繋がりを持っていた。佐竹は、大宮会からの賄賂を受け取り、彼らの犯罪行為を見逃す代わりに、警察内部の情報を流していたのだ。

 佐竹が裏切り者となったきっかけは、過去のある事件だった。佐竹が若手刑事だった頃、彼はある麻薬密売組織の摘発を担当していた。組織の幹部を追い詰めた佐竹だったが、その時、組織のメンバーによる激しい抵抗に遭い、仲間の一人を失ってしまった。

 その事件以来、佐竹は「力こそ正義」という考えに囚われるようになった。彼は、法の手続きを踏むよりも、力で悪を制圧することこそが、真の正義だと考えるようになったのだ。

 そして、その考えが大宮巌の目に留まった。彼は遠藤太津朗に似ている。大宮は、佐竹の力を利用すれば、大宮会にとって邪魔な存在を排除できると考え、彼に接近した。大宮は、佐竹の心の隙間に入り込み、彼を徐々に取り込んでいった。

 佐竹は、大宮会からの情報を元に、数々の犯罪組織を摘発し、警察内部での地位を確立していった。しかし、その裏で彼は、大宮会の犯罪行為を黙認し、彼らの勢力拡大に貢献していたのだ。

 鷲見が横田から事情を聞き出したことで、佐竹は自身の悪事が露見することを恐れた。彼は、横田を始末し、証拠を隠滅するために、黒田たちと協力して鷲見たちを追い詰めたのだ。

 佐竹は、鷲見たちを始末するために、かつて自身が所属していた組織犯罪対策課の捜査手法を悪用した。彼は、鷲見たちの行動を監視し、彼らの動きを先読みすることで、彼らを追い詰めていった。

 そして、佐竹は鷲見たちを倉庫に追い詰め、最後の手段として拳銃を構えた。しかし、その時、横田が鷲見を逃がすために、自らを犠牲にして佐竹たちに立ち向かった。

 横田の行動に動揺した佐竹は、一瞬の隙を見せた。鷲見は、その隙を見逃さず、佐竹の拳銃を奪い取り、彼を逮捕した。

 佐竹の逮捕後、彼の自宅からは、大宮会からの賄賂や、彼らの犯罪行為を記録した証拠品が発見された。また、彼の過去の事件についても再調査が行われ、彼が組織の幹部を追い詰めた際に、彼らをリンチにかけていたことが判明した。

 佐竹は、自身の正義を貫くために、法を逸脱した行為を繰り返していたのだ。彼は、力こそ正義だと信じ、悪を制圧するためには手段を選ばなかった。しかし、その結果、彼は自らが悪に堕ち、法によって裁かれることとなった。

佐竹の逮捕後、鷲見は一人、薄暗い取調室に座っていた。目の前には、手錠をかけられ、うなだれる佐竹。彼の姿は、かつての威厳を失い、ただの老いた男に見えた。

 鷲見は、佐竹の背中を見つめながら、かつて観た映画の登場人物たちを思い出していた。

 まず浮かんだのは、菅原文太だった。映画『仁義なき戦い』シリーズで彼が演じた広能昌三は、時代の波に翻弄されながらも、己の信念を貫き通そうとする男だった。佐竹もまた、自身の正義を信じ、それを貫こうとしたのかもしれない。しかし、広能と佐竹の違いは、その正義が歪んでいたことだ。広能は、あくまでも組織の中で生きる男の仁義を貫いたが、佐竹は、私欲のために法を捻じ曲げた。

 次に思い出したのは、田中邦衛だった。映画『仁義なき戦い』シリーズで彼が演じた槙原弘道は、狡猾で抜け目のない男だった。佐竹もまた、警察内部での地位を築き、大宮会との繋がりを隠蔽するために、狡猾な手段を使った。しかし、槙原が最後には破滅を迎えたように、佐竹もまた、自身の悪事が露見し、破滅を迎えた。

 そして最後に思い出したのは、遠藤太津朗だった。映画『仁義なき戦い』シリーズで彼が演じた有田俊雄は、権力に媚びへつらい、保身に汲々とする男だった。佐竹もまた、大宮会との繋がりを隠蔽し、自身の地位を守るために、保身に走った。しかし、有田が最後には組織から見捨てられたように、佐竹もまた、大宮会から見捨てられ、孤独な末路を迎えた。

 鷲見は、彼らの姿を思い浮かべながら、佐竹に問いかけた。

「佐竹さん、あなたはなぜ、こんなことをしたんですか?」

佐竹は、顔を上げずに答えた。

「俺は、正義を貫こうとしただけだ」

「あなたの正義は、間違っていた」

鷲見は、静かに言った。

「俺は、間違っていない。力こそ正義だ。それを証明するために、俺は…」

佐竹は、言葉を濁した。

「あなたは、力を履き違えた。力は、正義のために使うべきだ。私欲のために使うべきではない」

 鷲見は、佐竹の目を見つめながら言った。

 佐竹は、何も言わずにうなだれた。彼の背中には、深い後悔の念が滲み出ていた。

 鷲見は、立ち上がり、取調室を出た。彼の心には、佐竹の言葉が重くのしかかっていた。力とは何か、正義とは何か。鷲見は、これからもその問いを胸に、警察官として生きていくのだろう。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る