黒い狛犬のブルース②〜鯨鯢〜

第6話 大宮駅前の凶刃

　大宮駅前は、昼下がりの喧騒に包まれていた。人々は足早に駅へと向かい、あるいは駅前からそれぞれの目的地へと散っていく。その雑踏の中に、鷲見の姿もあった。

　鷲見は、古賀課長から渡された資料に目を通しながら、駅前を歩いていた。資料には、最近、大宮周辺で頻発している、暴力団同士の抗争事件について書かれていた。

「また、抗争か…」

　鷲見は、呟いた。最近、大宮周辺では、二つの暴力団組織、「神竜会」と「黒虎組」が、縄張りを巡って激しく対立していた。

　その時、鷲見の耳に、けたたましい叫び声が飛び込んできた。顔を上げると、駅前広場で、二人の男が日本刀を手に、斬り合っていた。

　周囲の人々は、悲鳴を上げながら、我先にと逃げ惑っていた。鷲見は、咄嗟に男たちの間に割って入ろうとしたが、その時、背後から、別の男たちが現れ、鷲見を取り囲んだ。

「邪魔をするな！」

　男たちは、怒号を上げながら、鷲見に襲いかかってきた。鷲見は、男たちの攻撃をかわしながら、周囲の状況を確認した。

　斬り合っている二人の男は、それぞれ「神竜会」と「黒虎組」の構成員だった。そして、鷲見を取り囲んでいる男たちは、「黒虎組」の構成員だった。

「やはり、抗争か…」

　鷲見は、呟いた。そして、男たちに視線を向けた。

「お前たちは、ここで何をしているか分かっているのか？」

　鷲見が尋ねると、男たちは、嘲笑を浮かべた。

「知ったことか！俺たちは、縄張り争いをしているだけだ！」

　男たちは、そう言い残し、鷲見に襲いかかってきた。鷲見は、男たちの攻撃をかわしながら、一人ずつ組み伏せていった。

　その時、斬り合っていた二人の男のうち、一人が鷲見に気づき、襲いかかってきた。

「邪魔をするな！お前も、まとめて斬り捨ててやる！」

　男は、そう言いながら、鷲見に日本刀を振り下ろした。鷲見は、咄嗟に後ろに飛び、攻撃をかわした。

「お前は…」

　鷲見は、男の顔を見て、驚愕した。男は、鷲見が過去に追っていた、ある事件の犯人、浜辺の息子、だった。

「なぜ、お前がここに…」

　鷲見が尋ねると、男は、ニヤリと笑った。

「父の復讐だ。お前が父を殺したからだ」

　男は、そう言い残し、再び鷲見に襲いかかってきた。鷲見は、男の攻撃をかわしながら、男の過去を思い出していた。

　男の父親、浜辺道隆は、過去に、大宮周辺で、暴力団組織を率いていた。しかし、鷲見によって逮捕され、服役中に病死した。

　男は、父親の死を鷲見のせいだと恨み、復讐を誓っていた。

　鷲見は、男との激しい攻防の末、ついに男を捕らえた。男は、なおも何かを叫びながら、もがき続けている。

「なぜ、こんなことをする？」

　鷲見は、男に尋ねた。

「父の復讐だ。お前が父を殺したからだ」

　男は、そう言い残し、意識を失った。

　事件は解決し、大宮駅前には、再び静寂が訪れた。鷲見は、駅前広場に立ち、遠くの空を見上げていた。

「復讐…か」

　鷲見は、呟いた。そして、その目は、再び遠くの空を見つめていた。

　古賀課長は、鷲見の活躍に感心し、新たな駅のニックネームを考え始めた。

「次は、何にしようか…」

　古賀課長は、呟いた。