第15話
男子を追いかけようとしたが、男はあきらめた。
目の前には腹から血を流したスーツ姿の池戸が倒れている。
顔面は真っ青で、口をあんぐり開けて、聞こえるか聞こえないかの音量で
んん・・・う・・・・ん・・・・
と声を発していた。
スーツのボタンは外されて左右の身幅が開放されている状態。ブラウスの腹部の中央にナイフが柄を残して突き刺さっていた。
男は周りを見ると誰もいないことを確認して、スマホのカメラを立ち上げてパシャパシャと写真を撮り始めた。そして動画モードにすると1分程録画した。
池戸は意識がもうろうとしながらも、一瞬目を見開き、血に染まった右手で男のズボンの裾を握ってきた。
男はそれに怯えて、ようやく119番通報したのだった。
「火事ですか?救急ですか?」
「女の人が腹から血を流して倒れています。ナイフがお腹に刺さっています」
テレビで見るようなやりとりと同じだった。とにかくナイフを抜かないように言われた。
数分すると遠くからサイレンの音が聞こえた。男のズボンを握る池戸の指は離れていなかった。
救急車が到着すると隊員は彼女の腹に刺さったままのナイフをそっと両手で握り、何やら固そうなもので柄の両側を固定していた。
あっという間に彼女はストレッチャーに乗せられて病院に運ばれてい行った。
救急車の中でも搬送先の病院で待機している医者とやり取りが続いているようだった。
隊員は彼女を励ましながら、
「誰にやられたか、わかいますか。」
「黒のパーカーの男・・・黒の・・・この間も・・・」
「知っている人?」
「わか・・・ら・・・ない・・・です」
そう伝えると彼女は意識を失った。
病院に到着すると医師や看護師が待ち構えていて救急隊員と手術室に足早にストレッチャーを運んで行った。
ストレッチャーから処置台に身体を移すと、医師はぱっと全身を検めて、腹に刺さったナイフの柄を握り、左右にぶれないように気を使いながら、ゆっくりとナイフを抜いた。
抜いた瞬間、池戸の腹の傷口から血がピシャっと吹き出し、医師や周りの看護師たちの手術着に血が付着した。
医師たちの懸命な手術が始まった。
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