第10話

次の日は土曜日で授業はなかった。


男子は配送センターの荷物運びのバイトを午前中に入れていた。


いつもより早起きをして着替えて部屋を出ようとしたときに、ふと気が付いたかのように、引き出しからナイフを取り出して、それをポケットにしまった。


バイトが終わり友達から駅前のマックで食べていかないかと誘われたが、心ここにあらず。断って帰宅した。


駅に着くと彼女と同じような格好をした女子大生が数人いた。


男子は周りに知り合いがいないか確かめると、そっとポケットにしまったナイフの柄を握った。


ナイフを落としたりしないか気が気でなかった。


京浜東北線の大宮行きが入線してきたので、男子は立ち上がり電車に乗り込んだ。


「次は蕨ぃ~蕨です」


車掌のアナウンスに促されるように席を立ち、ホームに降り立った。


男子は駅のエスカレーターに乗り、改札を抜けると、フーと息を吐きだした。


(いるわけないよなぁ・・・)


昨日はお昼だったし、今は午後2時、そんなタイミングよく彼女が現れるわけもない。一方で現れないで欲しいとも思った。そして流石に人が多いところでは人を刺すなんてことはできない。


人を刺してはいけない。ナイフは人を刺す道具ではないことは高校生の男子であれば常識としてわかっているはずだ。


男子は駅を出て歩道橋に向けて歩き始めた。自宅は歩道橋を超えたところにある。

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