私の住む場所
学生作家志望
正しい逃げ方
死ね。死ねクソきもいんだよごみ、生きてる意味ないだろ。キーボードを打ち込む手は汗でびっしょりと濡れていた。ボタンの隙間には埃やふけが溜まり、マウスの隙間には爪垢が挟まったままだ。私の人生を否定する否定材料が、私に死ねと言っているような気がする。
それに比べてネットは楽だよね。だって、どんなに酷いことを書いても、リスカした時みたいに血で染まるわけじゃない。気に食わないやつらに暴言をつぶやいて、次はあえて暇そうなことを書いてみる。
こうすれば、健全アピールができる。
健全アピールをしとけば、とりあえずBANされたりする危険性が無くなるから私は日常的なつぶやきも常習的にやっていた。ちょっと気を付けるだけで好きなことを言えちゃう世界、それが私の住む世界だ。
「ゆうか、これ違うんだけど。」
「えっ、いやでもカレーパンって言ってた、、」
「はあ?そんなこと言ってないんだけど、耳おかしいんじゃない?」
「まあいいじゃんゆうか、またこいつの金で買わせたらいいだけなんだからさw」
「それはそうだけどっ。てかゆうかって言わないでよ、こいつと同じ名前なの恥だから。」
「あ、ごめんw」
私はこの女たちのパシリ。先輩じゃなく、ただの同級生で同じ立場であるにもかかわらず、私は頭を下げて毎日自分のお金でこいつらに学食を買っている。今日もいつも通り誰もいない教室に呼ばれ、カレーパンを買うように頼まれて買った。
なのに、なのにこいつらは、私が持ってきたカレーパンをいらないと堂々と言いやがった。苦労して長い列を並んだのに。少し金色がかかった髪をしている、ゆうかは私の一番大嫌いなやつ。それも私と同じ名前。そんで、片方のさやというやつも私をいじめてストレス発散をしているクズだ。
結局私はこの後、二人にメロンパンを買いもう一度教室に届けた。
トイレのドアを肩でぶつけて開き、すぐに奥側の個室に入る。スマホを取り出して急いでいつもの場所に帰った。
悪口に悪口、さらにまた悪口。もはや平和なつぶやきは埋もれて、荒々しい表現ばかりが朝のゴミ置き場のように放置されて積み重なっていった。
どうして私は一人なんだよ。私を従えるあいつらは、いい気になってご飯を食べてるのに私はいつもトイレに引きこもってここにくるんだ。
誰かに届けたいわけじゃない、ただ、いらなくなったものを捨てる場所が私には無かったというだけだ。だから、その代用がこの世界だ。
「ただいま。」
誰もいないのに未だにつぶやいてしまう。これも悪い癖だ。いや、分かってる。私だって気に食わないやつの暴言をつぶやくなんてダメだって、自分が変わんなきゃいけないんだって、そういう悪い癖から直すべきだって、、
でも今更生きる場所を離れるなんて無理なんだよ。
「おかえり。」
「あれ、お母さん。もう帰ってたんだ。」
「あら忘れたの?今日はお父さんの命日でしょう。だからよ。」
「あ、そっか。」
慣れるって怖いな。今日がお父さんがいなくなった日だって、完全に忘れてた。
でも考えてみたらもうあれから8年。父親のいない生活には慣れたし、正直あまり悲しくもない。あ、でも少し寂しいことと言ったら、帰れば必ず今日あった話を聞いてくれてたお母さんが、今は働いていて余裕がなくなったってことくらいかな。
でも今はそんな話はないし、話したら無駄な心配もさせてしまうだろうから、むしろちょうどいいよ。
窓から差し込む夕陽の光が、お父さんの白黒写真を照らした。笑顔のまま、ずっと動かないで私たちを見つめていた。手を合わせて、ちーんって。未だにこれを鳴らす意味がいまいちよくわからない。でもただ安らかにとは思う。
お父さんの死因は首吊り自殺だった。きっと想像も絶する苦しさを抱えながら死んでいった。想像もできないし、したらなんだか自分の首も絞められるような気がして怖い。
だからただ安らかに、としか心の中でつぶやけなかった。
ピロンッ
「あ。ごめん。通知音切ってなかった。」
「こら。通知音は事前に切る約束でしょ。失礼だからね。」
「ごめんお母さん。」
スマホの通知音を切るのを忘れていた。スライドボタンをスライドしようとして、画面を持つようにスマホを支えた。すると、画面がぽっとついてその通知の正体が分かった。
「え・・・・・・。嘘でしょ、」
「ちょっと、スマホしまいなさい。」
「あ。え、お母さんちょっとごめん!!」
「ゆうか!!」
ドアを開いて部屋の外に飛び出した。それから自分の部屋がある二階へ続く階段を駆け上り、またドアを肩で開くようにして入った。
「はあ。はあ・・・・・・!!やばい消さないと、消さないと!!」
アプリを開いても通知は止まらず、急いで昼の投稿を開いた。そして自分の昼の投稿を見たとき、初めての感情に私は身を包まれた。
「なんでこんなの公開したんだろ・・・・・・。」
私が投稿したのは、ゆうかとさやとした会話の映像。映像ではあるけどずっと真っ暗で、二人の様子は映していない。ただ、録音のような感覚だった。そんな軽い気持ちでこれを撮り、投稿した。そうだ、いつもの常習的な悪口みたいな気持ちで。
でも私がしたこの投稿は、瞬く間に拡散され、私が見た時には閲覧数は400万を超えていた。
この投稿がもし学校にバレたら、退学・・・・・・。最悪な結末が頭を瞬間的によぎると、私はとにかくこの投稿を消した。でも私のした投稿はほかの人によって再投稿され、そのつぶやきも閲覧数がどんどん伸びていった。
「どうしよう、、なんで、なんでこんなことになんの・・・・・・。私は、ただの悪口感覚だったのに。」
いつも閲覧数は10にも増えなかったのに、なんで、私が、私なんかがバズったんだ。
学校から電話が届いたのはそれから1時間も経たずしてだった。
放心状態だったからあまり説教の内容は覚えてないけど、確か使い方を改めた方がいいって、言われたような気がする。
「ごめんなさい、お母さん。」
「私のせいで、、変なことに巻き込んだし、こんなに迷惑ばっかりかけて本当にごめんなさい。」
リビングのテーブルに座って、暗い顔をしていたお母さんに私は精一杯謝った。しばらく頭を下げた。
お父さんがいなくなって、お母さんは一人で私を養ってきた。誕生日プレゼントなんてなかったし、お小遣いもすくなかったけど、それでも私のために毎日、毎日、働いていた、それなのに。
最低だよ、私。
「ゆうか。私は、母親失格だった。なんにも、あなたのこと分かってなかったんだもん。いじめられてたんでしょ?それなのに、私は何も知らなかった。」
「いや、でもそれは私が相談しなかったから、」
「ネットに暴言を吐くしかなかった、そういうことだよね。私がもっとあなたに向き合って、話を聞いてあげてたら、休日とか少しでも時間があるとき、私はゆうかじゃなくて自分を優先しすぎてた。それがダメだったのよ。」
「そんなことないよ!!!私が、もっとしっかりしないいといけなくて、メンタル弱くて、ずっと閉じこもってるからダメダメなんだよ・・・・・・。」
「いいの、逃げてもいい。だって世の中逃げたくなることだらけでしょ。その逃げる場所を私が作ってあげれてなかった。だからゆうかは逃げる場所を探した。逃げてもいい、辛いときは、まず目の前にいる誰かを頼って。吐き出して、それで楽になれるなら私はいくらでも聞くからね。」
ネットに吐き出して、私は逃げた気になってた。逃げきっていた気になってた。でもそれは結局、不満を積み重ねているだけで、気持ちの解決には絶対つながらない。目の前にいる人に助けてって言えば、言ってみれば、、それだけで気持ちが和らぐかもしれない。
小学生の時は毎日話してたのに、大きくなればなるほど、出来なくなってた。
正しい逃げ方をなんで、なんで、忘れてたんだろう。
「よし、じゃあ私の話は終わり!今日はお父さんの好きなシチュー作るから、ゆうかも待ってて!」
「・・・・・・うん!」
食器棚から食器を取り出して、キッチンに置く。私が小学生の時に見ていた、日常的な風景が目の前に広がった。
「お母さん!」
「うん?」
「今日ね!学校で!」
そろそろお父さんが帰ってくる時間だ。だから、お父さんにも話をいっぱい聞いてもらおう。
私の住む場所 学生作家志望 @kokoa555
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