22

「私達付き合いませんか。」


考えるよりも先に言葉が出ていた。

だって私から付き合いたいって思ったのも初めてなんだから。


「え?」


「貴女の初めて、色々奪っちゃったし。責任取るというか…。正直に言って私、恋とか分からないんです。それでも今貴女のことがほしいと思ってます。この答えじゃダメですか?」


うん、またもや我ながら最低な返事だ。

と、自己嫌悪していると彼女はようやく顔をあげてくれた。


少し泣いたのか目元が赤い。

今でもうるうるしている。

こういうところが可愛いんだよ。


「はい。それで十分です!」


彼女も物好きだと思う。

こんな最低な私を受け入れてくれるなんて。


「その、もう前みたいに無理矢理はしないので……。」


「それは当たり前です!」



ニヤニヤが止まらない。

これじゃあ私もマスターや常連客のこと、言えないな。


「今さらですけど、名前とか聞いても?」


今度は私から聞こう。

彼女の名前を。

ずっと知りたかった、彼女の名前を。


「あ、そうですね。私は宮園天音。大学生で二十歳です。」


宮園天音…。

ぴったりの名前だと思う。

そしてやっぱり年上だったんだ。


「改めて瑞木千景、今年で十七才。」


ここにきてようやくかな。

やっと自己紹介ができた。

あ、そうだ。

これからはもうバイト従業員とお客様の関係じゃないんだ。


恋人……だからよそよそしい敬語もやめよう。

距離感じるし。


「え。え。こ、高校生!?」


「そうだけど。」


あれ。

気付いてなかった?


「年下だったんだ。嘘じゃ……ないよね?」


「失礼な。七日で高二だよ。」


そんなに高校生に見えない?

もしかして老けて見えるのかな。それはそれでショックなんだけど。


「もしかして年齢気にする?未成年だし。」


「うぅん。だって君がいいんだもん。」


この人はっっ!!

さらりとそんなこと言えるのがすごいわ!


「絶対年上か同じかと思ってた。大人びてるし、カッコいいし。それにその髪色、普通高校生にいないし。」


なるほど、正論。

確かに普通の高校生は黒か、地毛の茶色だからね。

ピアスはしてないけど、赤茶だから結構明るいんだよね。


「染めているの?」


「うん。」


「どうして?」


「気分?」


「気分!?」


驚くことかな。

なんとなくこの色でとか美容師に言っただけなんだけどな。


「あ、よく見たらもしかして制服?」


「あーそうそう。」



パーカー着てるから分かりにくいか。



「あとミズキちゃんって、名前じゃなかったの!?」


「あー、そうそう。瑞木は名字だよ。」


「てっきり名前かと…。」


「よく言われる。」


よく間違えられて自己紹介しても、名字は?ってよく聞かれたり。


「そっかぁ。千景ちゃんだったんだ。」


「あの、ちゃん付けは…。」


「なんで?可愛いのに。」


「キャラじゃないんで。」


う………。

そんな子犬みたいな目でこっちを見ないで……。猫派だけど。

私をちゃん付けで呼ぶ人はいないんだから。


「はぁ。分かったよ。好きにしなよ。」


「やったね。それともうひとつお願いがあるんだけど。」


「何?」


「私のことも名前で呼んでね。」


それは勿論。


「分かってるよ、天音。」


「わ……!なんかすごいね、名前を呼ばれただけなのに。」


そんなことで赤くなる天音が可愛いんだけど。

これから名前で呼び続けるのに大丈夫かな。



「えっと、これからよろしくお願いします。」


「こちらこそ。」


「なんか照れちゃうね。」


「少しね。あ、そうだ。連絡先教えてよ。」



メッセージアプリを起動させて友達登録だけでなく、メアドや電話番号まで交換した。

もしアプリがダメになったら連絡手段途絶えるからね。


「ねね、気になったんだけどその制服ってあそこでしょ?超進学校の。」


「進学校だけど、言うほどじゃないよ。」


「いやいや。すごいよ!千景ちゃん、頭いいんだぁ。」



ただ当時の担任に進められたから入っただけなんだけどなぁ。

この様子だと今の成績も言わない方がいいかな。大騒ぎしそう。


「天音は大学生って言ったっけ。」


「そうだよ、経済学部です。」


文系っぽいもんなぁ。

あ、じゃあ店でパソコンとか持ち込んでたのって、レポートとかゼミの資料作りとかかな。

謎が溶けてすっきり。


「そろそろ帰ろ。風邪引くよ。」


「そうだね。ちょっと肌寒いかな。」


それは大変だ。

天音が風邪なんて引いたら。

私は天音の手を取って指を絡める。

恋人繋ぎってやつ。


「ち、千景ちゃん?」


おーまた赤くなった。

初々しくて可愛いなぁ。


「嫌?」


分かりきっていることを聞いてみる。


「そんなわけないよ…。」


反応してくれるところもいいね。



「私、お付き合いするの初めてだから至らない所もあると思うけど…。」


「いいよ。ゆっくり私達のペースでね。」


「千景ちゃん、本当に高校生?」


「だからそうだってば。」



そんなに疑う?

バリバリの高校生なのに。



「だって余裕あるんだもん。」


「………ないよ。余裕なんて。」


「嘘だぁ。」


本当です。

今も抱き締めたい衝動に駆られて大変なんだから。

ゆっくり少しずつって決めたんだ。

また段階をすっ飛ばしてたまるか。



「千景ちゃん、暖かいね!」




笑顔の彼女。

私はこの笑顔をずっと見ていきたいと思った。

生まれて初めて大事にしたいって思える人なんだ、ゆっくり少しずつ…彼女と進んでいこう。




私の初めてできた彼女と。






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貴女にガーベラの花束を 夜桜酒 @DN09

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