「ラムネ氏のこと」のこと
まみ。
ラムネ氏を全て選べ。ただしトンベーは単数形である。
「その小説では「ラムネ玉を作った人」のことを、仮に「ラムネ氏」と呼びます。」
「はい。」
「ただし「ラムネ玉を作った人」と同等のよくわからない功績をあげた人のことも、まとめて「ラムネ氏」と呼びます。」
「なるほど。」
「そこで定期テストに「ラムネ氏を全員選びなさい」って問題が出たんです。」
「面白そうですね!」
「まず1人目は「ラムネ玉を作った人」です。」
「はい。そうですね。」
「続いて「ラムネー氏」です。」
「誰ですか?ラムネー氏って?(笑)」
「ラムネー氏は実在する人物です。」
「小説の中で?」
「いえ。現実にもいて、小説の作者は「ラムネー氏もラムネ氏だ」と言っています。」
「小説の作者がそう言うなら、仕方ないですね。一旦、次行きましょうか。」
「それから「コバヤシ」です。」
「誰ですか?コバヤシって?(笑)」
「コバヤシは、その小説の作者の友人です。」
「小説の作者の友人も、小説の中に出てくるんですか?」
「そうです。コバヤシも小説家で、「戯作者」です。」
「何ですか?その戯作者ってのは?」
「戯作者は、小説家の一種だと思ってもらえれば。」
「わかりました。一旦、次行きましょうか。」
「そして今言った戯作者で4つ目です。あと1つが、とても難しかったです。そこで定期試験では「トンベー」を選びました。」
「誰ですか?トンベーって?(笑)」
「トンベーは集合体になると、ラムネ氏になる概念的存在です。」
「集合体って、一体何ですか(笑)」
「「幾百十のトンベー」は、小説内に登場します。」
「本当に小説の中に、「幾百十のトンベー」が出てくるんですか?」
「はい。「幾百十のトンベー」だったらラムネ氏なので、ちょっとおしかったんです。」
「それって、おしかったんですか?」
「「メニー・トンベーズ」だったら正解でしたが、「ア・トンベー」なので間違いです。」
「えっ?英語のテストだったんですか?そもそも人の名前に「ア」はつけないですよね?」
「すみません。「メニー・トンベーズ」と「ア・トンベー」は、勝手に今作ってしまいました。」
「さすがにそうですよね?」
「ただ「幾百十のトンベー」って言葉は、実際に小説の中に出てきています。単数形は正解じゃないと思っていましたが、複数形の選択肢がありませんでした。」
「日本語の問題文に、単数形とか複数形とかあるんですか?」
「もし「幾百十のトンベー」って選択肢があれば正解なんですが、選択肢には単なる「トンベー」しかありませんでした。トンベーが間違いだと思いながらも、渋々トンベーを選ぶしかなかったんです。」
「なるほど。」
「他の選択肢として「タロベー」もありました。」
「タロベーもいるんですか(笑)」
「タロベーは集合体になってもラムネ氏にはなれない存在なので、タロベーは明らかに違います。」
「それで正解は、何だったんですか?」
「正解は「サカグチ」でした。」
「誰ですか?サカグチって?(笑)」
「その小説の作者です。」
「選択肢の中に、サカグチの名前もあったんですよね?」
「はい。もちろん。」
「なぜその答えに、たどり着けなかったんですか?まさか小説の作者の名前を覚えていなかったんですか?」
「小説の中に「私は確実にラムネ氏にはなれない」ってニュアンスのセリフがあるんです。」
「そのセリフは、サカグチ自身が言ったんですか?」
「はい。」
「普通そう書かれていたら、サカグチはラムネ氏じゃないって思いますよね。でもなんで小説の作者がラムネ氏で正解なんですか?」
「そのサカグチが言ったセリフの後に、わけのわからない内容が出てくるんです。そしてその小説を世に出したことで、サカグチもラムネ氏になったってことなんです。」
「つまりサカグチは戯作者になったってことですか?」
「すごい!まさにその通りです!」
「まるでサカグチの友人で、小説家のコバヤシのように!」
「ここでコバヤシの伏線が回収されます。」
「これは面白い!メタいミステリーだったってオチですね!」
「そういうことです。ちなみに授業中に突然、先生に当てられたこともありました。」
「どんな質問が来たんですか?」
「「遺言を残さず往生したキノコ名人は、タロベー、トンベー、ラムネ氏の中の誰だと思いますか?」って…。」
「それでどう答えたんですか?」
「「タロベー」って答えました。」
「タロベー(笑)」
「はい。」
「いや、待ってください。それ正解ですよね?」
「今のだけでわかったんですか?それは本当にすごいです!」
「いえ。でも授業中に話の途中で、わかったんですよね?」
「今回の授業は面白いと思って、しっかり聞いてたから途中でわかったんですけど、今の話の流れだけで「タロベーが正解」にたどり着くのはものすごいです。」
「ポイントだけ教えてもらっていたので、わかりやすかっただけです。」
「小説に登場するキノコ名人は、何人集まってもラムネ氏にはなれなかったんです。つまりラムネ氏でもトンベーでもないので、タロベーだってことです。」
「そのときみんな驚いていましたか?」
「「タロベー」って答えたのを聞いて少し笑う生徒もいましたが、先生は「まさかこの問題を正解するとは」って表情でした。」
「つい誰でも反射で「ラムネ氏」って答えたくなりますよね。」
「先生に質問される数秒前に「このキノコ名人、タロベーやんけ」って気づいたから良かったです。」
「気づいていなかったら、何と答えていましたか?」
「「わかりません」って答えてましたね。」
「ラムネ氏とは答えなかったんですね?」
「さすがにキノコ名人は、ラムネ氏ではないかなと思いました。」
「それにしても学校の授業で、面白い小説が選ばれることもあるんですね。」
「はい。ただしっかり内容を理解しないと少し難しい小説なので、たくさんの生徒たちが面白いと思ってくれるといいんですけどね。」
「ところで授業でその小説を選んだ国語の先生も、ラムネ氏だったんでしょうか?」
「国語の先生は小説家ではないし、戯作者ではないと思いますよ。」
「その国語の先生は、トンベーだったのではないでしょうか?」
「トンベーなんですか?」
「幾百十の国語の先生がいれば、この小説が広く知れ渡るため、戯作者と同義になるのではないでしょうか?」
「なるほど…。この小説を選ぶ国語の先生が増えて集合体になれば、新たなラムネ氏が誕生するってことですね。」
(完)
「ラムネ氏のこと」のこと まみ。 @mm2445
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