死神と人間

要想健夫

死神と人間

 傍若無人、反逆者、道楽者と謳われた、死人パンクは、トロッコからの、レールからの、転落により、死んだらしい。

何でも、死ぬ最後には、笑顔で落ちて行ったらしい、きっと気が狂ったんだろう。

 そんな、厄介な死人、パンクが今日、この天界にやって来る、え?天国に行くのかって、そんな筈が無いだろう。

彼奴には、地獄何かは勿体無い、彼奴には地獄よりも低俗なの仕事を受け持ってもらう。



 俺の名前はパンク、死人だ、っても死人に口無くちなしと言われても、何かこうして喋れてるし、意識もはっきりしてるんだ、俺はこれから地獄行なのかね?やっと長年のツケが回って来たみたいだな。

 まぁしかし、別に構わないがな、始めたのは、紛れも無く、俺だ、幾ら反逆しかな、覚えていないぜ。

 そうこうしていると、真っ暗闇の空間が外側から裂けて行った、俺は驚いて眼を見張ったさ、とうとう閻魔様の御登場かって、だけど地獄にしては幾分か、純白な天界みたいな明かりに照らされて、俺は眼を閉じた。

死んでも意識が有るんだったら、救いが有るよな。

 それから、数秒経って、眼を開けてみると、俺は透き通るとまではいかなかったが、純白の雲の上に、立ってた。

辺りには、同じ様に少し先に、幻想的な雲が漂ってて、俺は飛行機の車窓から見える、の景色を思い出した。

そんで、そこかしこの、雲には(俺の所にも架かっていたんだが)階段が架かっていた、これがホントの天国への階段かって俺は勝手に感心してたぜ。

 そうしたら、前に受付か何かの机を挟んだ所に、輪っかを被った、羽は見えねぇが天使みてぇな奴が居て、そいつが口を開いたんだ。

「ようやく、来たか、えらく、遅かったな」

 そいつは、天使らしからぬ、俗っぽい口調で話したから、俺は言い返したよ。

「おいおい、天使さんかどうかは知んねぇが、えらく俗っぽい話し方じゃねぇか、この天界みてぇな場所には似合わないなぁ?」

 すると、彼奴は、俺にも負けないぐらい、気味悪げな笑顔で言い返してきたんだ。

「ああ、そうさ、此処は天界さ」

「やっぱりか」

「しかし、僕は天使でもあるか、こう言う話し方も良いじゃないか?」

「君らみたいな、俗物に合わせてやっているだから、感謝し給え」

 俺は内心面倒臭そうな奴だなと思いながら、話を聞き続けた。

「そうかい、そりゃありがたいねぇ」

「それに、地上には多様性と言う、便利な言葉があるじゃないか」

「ああ、そいつは肯定するぜ」

 俺と彼奴との間には、少しの間が空いて、再び、彼奴が話し始めた、だから俺は耳を澄ませてやる事にしたんだ。

「さて、早速、本題に入ろうか」

「俺の地獄行の件か?」

「いいや、違う」

「何?違うのか?」

「ああ、あんたに地獄は勿体無い――お前には死神の仕事を受け持ってもらう」

「死神の仕事?えらく、簡単そうじゃねぇか」

「ハハ、そうかい、そう言うかい、まぁそうかもしれないねぇ」

 彼奴は、何か訝しげに俺を微笑しながら、見つめた。

「まぁよ、その仕事を引き受けりゃいいんだろ?」

「ああ、勿論、否定しても、良いがね、その代わり、永遠の闇に覆われる事になるがね」

「ええ、やだよ、面倒臭い、そんぐらいなら、引き受けるよ」

「よし、交渉成立だ、それじゃあ、着替えに行ってもらおうか」

「どうやって?」

 彼奴は、俺に目配せして、俺にこっちを向く様に指示した、俺は彼奴の方を向いた、すると、彼奴が中指と親指を摩擦させて指を鳴らした瞬間、俺はどういう理論か、服屋か何かの、試着室みたいな場所にとばされた。

 俺は、驚いたが、直ぐに、狭い更衣室の床に置いてあった、黒色のローブみたいなやつを見て、そのローブに着替える事にした。

 鏡には、ぱっと見では、美少女に見える俺が居た、白髪に紅い目、整った顔立ちは、俺の母親の遺伝だ、彼奴は間男と消えたがな、構わんぜ。

なぁに、変に否定したり、俺に敵意を向けるのは、辞めなよ、あんたらも、美少年や美少女の方が、見てて、華だろ?

俺もそうだよ、だから、あんたらも、肯定してくれよ、そういうもんだろ。

 そうして、俺は、ローブに左右の腕を通して、着替え終わった、自分に満足そうに見惚れて、更衣室から出る事にした。

すると、直前で、彼奴の声が、俺の脳内に響き渡った。

『自惚れの時間は楽しかったかい?』

『ああ、充分な』

『その更衣室から出たら、君は現世に出る、君は現世で連れて逝くべき人間に鎌を振り下ろすんだ』

『鎌?死神の鎌か?』

『ああ』

『更衣室から出た時に、鎌は何処からか降って来ると思うから、それを取って、事を熟すんだ』

『死神の仕事をか?』

『ああ、流石、人間、飲み込みが早いじゃないか』

『俺はもう死神だぜ』

『そうだったね、それじゃあ、仕事が終わったら、戻って来ると良い』

『家族を見守ったり、寄り道をしても良いがね』

『判った、それじゃあな』

『ああ、それじゃあね』

 そうして、俺は更衣室のカーテンを、横に退かす様に引いた。



 カーテンを引いてみると、俺は往来のど真ん中に繰り出した。

俺はこれ見えねぇのと思いながら、更衣室から出て、往来を歩く、人々を見回した。

どうやら――やっぱり、この更衣室も俺も見えないらしい、俺は他の人達と同じ様に、往来を歩き始めた。

 すると、俺の真上から、ビル群の中を掻き分けながら、鎌が俺の元に降って来た。

鎌は如何にも、死神の鎌って感じの鎌だ、俺は鎌を掴み取って、自分の掌中しょうちゅうの中で、回した、武器の扱いには慣れているしな、何でかは、聞くまでも無いと思うが、俺が鎌を手に持ってみると、俺は道行く人々を見て、直感で殺すべき人間を、見分けれる様に成った、俺はこういう事かと、物騒ながら感心して、宙に浮き上がった。

どうやら死神は空も飛べるらしい、浪漫があるな。

 そうして、俺は手始めに、住宅地や街中、商業施設を飛び回った、殺すべき人間の仕分けをしながらな。

そうこうしている内に、世間は夜に成っていた、しっかし、彼奴は仕事が終わり次第、帰って来いと言っていたことを俺は思い出し、俺は仕事傍ら、あらゆる場所を飛び回っていた。

 そんな中、俺は住宅地から聞こえる「死にたい」と言う声に、反応して、或住居に入って行った。(透けて行って)

声の方向を辿っていくと、そこには、中学生辺りのガキが、恐らく友達だろうが、それらしき奴と、電話しながら、こう連呼していた。

「ああー、まじで死にてぇ」

「何やねん、このクソみたいな、世の中はよぉ」

「キモくね?」

 そいつは、本気で言っているのか冗談で言っているのか、どっちつかずの声でそう言った。

俺はチャンスだと思って、そいつの後ろから、鎌を振り下ろした。

 そいつの身体を、貫通して、鎌はすり抜けた、しかし、これで良いんだろう。

俺は初めて鎌を振ってみた感覚を、味わいながら、言った。

「なるほどな、こう言う感触かぁ」

「だけど、連れて逝くべき人間には鎌を振り下ろせっつったよな?」

「なら、これで、良いって事だ、此奴の明日が楽しみだぜ」

 俺は満足気に鎌を振り回して、宙を舞いながら、そいつの明くる日を待ってやった。

 翌日、そいつは特別苦しまずに逝った、俺は安堵の表情を浮かべて、その住居を飛び出して、よーく耳を澄ませてみた。

「おおー!聞こえるぞ聞こえるぜ」

「皆こんなに死にたがってるんだな、待ってろよ、俺が直ぐに逝かせてやるよ」

 俺はそう決心して、また色々な場所に繰り出した。



 俺は色んな場所に繰り出しながらも、しっかりと殺すべき奴らを殺していった、犯罪者や寿命が近い人達、その他諸々をな、その中で俺は人を殺すのはこんなにも容易かったのかって度々思い知らされたよ。

 俺は犯罪を働いた事は幾つかあるか、人を殺すと言うのは、俺の中でもご法度って言うイメージが着いてて、人を殺す事は生涯無かった。

だから、こうして、連れて逝くべき人らを連れて逝ってやんのは、気持ちが良いぜ。

 そんな事を、考えながら、辺りを彷徨っていると、高校の方からかな、高校生が学校から、帰っている最中、そんな中から、か細い女の子の声が聞こえたんだ。

「もう、疲れた」

 俺はその声を聞きつけて、その女の子を見つけ出して、学校から帰るのを見届けていた。

突然、風が吹いてきて、女の子の制服の袖が靡いた時、女の子の腕には打撲した様な、傷が見えた、おまけに女の子は帰る間、ずうっと憂鬱そうだった、俺はその時何かを察して、女の子が寝るまで、尾行を続けた。

勿論、風呂は除いてな。

 そんで、女の子を、見ている内に、その女の子はいじめを受けている事が判った、俺は、呆れた様に笑いながら、次の日も次の日も女の子を見守った。

 そして、女の子が自殺を企もうとした、その時、俺は女の子に鎌を振り下ろした。

勿論、人間生きてる他に、良い事何て、余り無いもんだが、女の子は相当追い詰められていたみたいで、死ぬ事以外に休養のゆとりを感じ得ずにははいられなかったらしかった。

 俺は、女の子が苦しまず、ぽっくり逝ったのを、眺めて、自分の判断は正しかったのか、問いただした。

だけど、俺には、やらないといけない事があったんだ。

 俺は、女の子の数日を眺めている内に、その女の子をいじめていたとされる、いじめっ子数名を特定した。

だから、俺はその死神の鎌を振り下ろして、そいつらを葬り去った。




 数日間の仕事を終えて、俺はまだ何だか、遣る瀬無い気持ちに駆られながら、仕事を終え、その天界とやらに帰った。

数日前とは、変わらない彼奴が俺を迎える、天界は何も変わってもいなかった。

 彼奴は、帰って来た、俺を見て、何時もの気味の悪い笑顔を見せながら、言った。

「お疲れ様、よく頑張ったね」

「ああ、だろ?」

 俺は笑顔を装って、余裕そうに呟いた。

「まぁ、そうも言いたいが……」

「あ?」

「君、殺すべき者を殺しながらも、殺さなくて良い者達の方が多く殺しているって言うのは、どういう事だい?」

「ああ、死にてぇ奴がわんさか居たからよぉ、全員連れてってやったんだよ」

「………」

「そうか、やっぱり、君には、地獄以外に相応しい居場所何て無かったか……」

「え?」

「さようなら、パンク」

 彼奴がそう言って、手を叩くと、俺の下にあった、白い雲は消え失せて、俺はあの時みたく、また真っ逆様に落ちて行った。

 熱気しか感じない、奈落の穴を落ちている途中、俺は何個かの鬼火達と出会った。

「何で、俺をぶっ殺したんだよ?!」

「本当に、死にたかった訳じゃねぇのによ」

 死にたいとほざいていた奴らの中には、死にたくなかった、奴らの方が多かったらしい、所詮その程度だ、自業自得だぜ。

そんな奴らの、文句を流していると、一つの声が聞こえてきた。

「死なせてくれて、ありがとうございました」

 俺は眼を見開いて、辺りを見回した、さっきまで居た、鬼火達は消えていて、俺だけが残っていた。

俺は、微かに聞こえた、その声に言い返してやった。

「おーい!死んだ奴らにつくぜぇ!」

「お前らは自分で死んだんじゃねぇ!俺が殺したんだ!」

「だから、間違っても地獄に何かは迷い込むなよ!!!」

 俺は、息切れした様子で、また息を整えてから、最後の言葉を紡いだ。

「そんで、死神であった俺が現世の人間共、お前らに告ぐ!」

「死にたがりの人間共!間違っても自分で死ぬんじゃねぇぞ!」

「死ぬなら老衰か、偶然の事故死でな!」

「故意何て許さねぇぜ!!!」



 死神パンクは、実質上の死を迎えた、仕事のルールを守らず、殺さなくても良い人間達を、大勢殺したんだ、当然の報いだ。

 人間も人間で、直ぐ出来る事を、そう何度も自問自答せず、生き続ければ良いものを、兎に角、パンクは死んだ。

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