真珠のピアス

上田 由紀

真珠のピアス

助手席に腰を下ろした途端、違和感があった。

それはスカートの裏地を通して伝わってくる。

小さくて何やら固い物。

私は僅かに腰を上げ、指先でそれを掴み取る。

そして、そっと手を広げた。

小ぶりの真珠のピアスだ。


(なぜ、こんな所に? 私のじゃない。じゃあ、誰の?)


そもそもピアスの穴など開けてないし、普段からイヤリングすら付けない。明らかに、他の女性の物だ。


私は横目で、彼を盗み見る。

彼は前方を見すえ、ハンドルを握っている。

私の動揺には気づいていないようだ。


(誰か、乗せたの?)


彼の横顔に視線を当てる。

私は口を開こうとした。

だが、すんなりと言葉が出てこない。

誰か乗せたの?

その一言が、なかなか言えない。

怖い。そう、真実を知るのが怖いのだ。


視線を感じた彼が、一瞬こちらに目を向けた。


「どうかしたの?」

逆に彼が尋ねる。


もしかしたら彼は、しらを切る可能性もある。

だったら、聞いても意味がない。

そこで、ある考えが浮かぶ。

ピアスは見なかったことにしたらいいのではないだろうか?

そうすれば、何事もなく上手くいく。

今まで通り、彼との関係を続けていける。


「ううん、何でもない」

私は平然とした口調で答える。


「そっか。あっ、そういえば来週のキミの誕生日だけど、急に出張が入ってしまったから、一緒にはいれないんだ。ごめん……」


「えっ、そうなの? 残念だわ」


誕生日に彼と過ごすことは、ずっと前から楽しみにしていた。


「後で、埋め合わせするから。ホント、ごめん」


「うん。仕事なら、仕方ないわね」


本当に出張なのか、もしかしたらピアスの女と会うのではないか? という疑念が沸いてくる。

イヤ、でも、本当に出張かもしれない。



ピアスは捨ててしまおう。

元々、ここには落ちてなかった。

そう、最初からなかったのだ。

ピアスを握りしめたまま、私は暗示をかける。


もし、もし仮に、彼が浮気していたとしても、私が我慢したらいいだけの話し。


(だって、彼を失いたくないから……)






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