老夫婦の夢は覚めない
夕日ゆうや
タイムカプセル
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
息子たちに話しても、信じてはもらえないばあさんとわしの夢物語。
わしとばあさんは大学で知り合い、26の時に結婚した。
6年間の同棲生活とほぼ変わらない生活を送った。
そのあと60年間連れ添った仲だ。
突然ばあさんは息をひきとった。
86の時だ。
そこから毎年、8月のお盆の夢にばあさんは出てくる。
その度に息子の
とくに孫の
ばあさんのあこがれだったアイドルももうテレビで見ることはない。
時が経ったのだ。
このまま、わしも生先短いのだろうか?
いや、もう97歳だ。
そろそろいい歳なのかもしれない。
もしかしてばあさんはわしを迎えにきているのだろうか。
刻んだしわの分だけ笑い泣いた。
辛いこともあったけど、わしはばあさんに会えて幸せだった。
文句も言わずにわしの理想を手伝ってくれた。
突然、サラリーマンから農家へ転職すると豪語した時はさすがにひくついた顔をしとったが。
それでも連れ添ってくれた。
こんなワガママなわしによくついてきてくれた。
引っ越す時も「今はスマホがあるし、新しい場所で友達を作ればいい」と言って、わしの心配を跳ね除けてくれたのう。
わしに余計な気を遣わせないためだ、と今は思う。
出来た嫁だったよ。本当に。
9回目にしてようやく聞けたことがあったのう。
わしは重い腰を上げ、庭の柿の木に埋めたタイムカプセルを開ける。ばあさんが教えてくれなければ気が付かなかったわい。
トリの降臨した柿の木は少し輝いて見えた。
「ばあさんの宝物はこれじゃったか……」
家族みんなと一緒にいる写真。
隣には手紙が添えてある。
手紙にはばあさんの思いが綴られていた。
わしと出会ってからの60年間。
その日々の感謝やお礼の言葉。
丁寧に丁寧にわしとの思い出を飾られていた。
ツーッと涙が頬を伝う。
わし、甘えていたのに。
なのに、なんでこんなにも暖かい言葉が出てくるんだ。
「爺ちゃん。なんで泣いているんだ?」
「いやなんでもない」
わしはタイムカプセルに手紙を添える。
もともとは夢で出会うばあさんに向けたものだったが、本心を知った。
ばあさんには不要なものだ。
「さ、墓参り行くか」
「うん」
孫は純粋な眼差しで応じた。
老夫婦の夢は覚めない 夕日ゆうや @PT03wing
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