おまけ「陽だまりニ号店」
朝靄がまだ街の屋根を包む頃、王都の西のはずれ、静かな路地に新しい看板が掲げられた。
《陽だまり ニ号店》
そこに立つのは、副店長・アニュー。清潔なエプロンをまとい、小走りで厨房に入る。
「おはようございます、ラミス店長! さっそく昼営業のための開店準備を」
陽だまりニ号店は、なんと昼営業だった。材料や人員の都合で朝しか開店しない陽だまりが終わっても、王都に入れば昼営業の陽だまりに来店できるという何ともうまくできた形になった。
「うん、おはよう。まずは味噌汁から始めようか。今日は里芋とごぼうに、人参も加えてみよう」
厨房に立つ店長――ラミスの声は、穏やかで静かな響きを持っていた。
その姿からはかつて「魔王」と恐れられていた面影はない。
だが、ラミスは確かにかつての魔王である。
千年前、人間を忌み嫌い、力と恐怖で世界を治めようとした彼女は、ある日、勇者に敗北した彼女は時間停止魔法を受けて、そのままこの時代へと辿り着いた。
記憶の片隅に滲む孤独と、焼けるような魔力。
その彼女を救ったのは、絵留の作った一切れのレモンパイだった。
「甘くて、すっぱくて……どうしてこんなに、胸が温かくなるのだ……?」
その時からだ。
料理を通して、この世界の人々と触れ合い、異種族との交流に戸惑いながらも惹かれていった。
“魔王”だった頃の鋭さは、今では優しさに包まれている。
「店長って、呼ばれるの、まだ慣れません?」
「少しは慣れた。でも……この肩書きより、『ラミス』って名前を、笑顔で呼んでくれることのほうが嬉しいな」
アニューはふっと笑った。
剣の修行に明け暮れ、アデルへの思いをこじらせていた頃とは違う。
彼女もまた、ラミスと同じように“ここでの自分”に居場所を見出していた。
(昔の私は、力で人を従わせるしか知らなかった。でも今は、温かいご飯を出して、『また来るね』って言われるのが、何より嬉しい)
味噌汁の香りがふわりと漂う。
湯気の向こうに、小さな“陽だまり”が確かに広がっていた。
⸻
昼時。一番乗りの客は、近くの養蜂園の老夫婦。絵留の頃からの付き合いだ。
「おう、ニ号店が王都の中にできたって聞いてな。汗かいてさたから塩分が欲しい。味噌汁から先にたのむよ」
「はい、心を込めてお出しします」
アニューは笑顔で答え、ラミスが具沢山味噌汁をよそった。
野菜がごろりと入ったそれは、魔王だった彼女が、何より好む“人のための料理”だ。
「これが…私が望んだものなんだ」
ラミスは、そう言って微笑んだ。
⸻
その日、入り切れないため行列ができた。
皆が彼女の味に、心に惹かれてここに集まってくる。
そして彼女自身も、ようやく“誰かの居場所になること”の喜びを知ったのだった。
⸻
「ラミスさん」
「ん?」
「私、このお店に来れてよかった。雇ってくれて、店長になってくれて、ありがとうございます」
「ふふ、私もだよ。……これからも、二人で“陽だまり”を守っていこう」
過去から来た【かつての魔王】と恋に敗れた【補佐兼剣士】のコンビ。
そんなふたりの、あたたかい陽だまりの物語は――これから始まっていく。
そこへ、カランと扉を開けて来客があった。
「いらっしゃいま……せ…」
ラミスは固まった。そこにいたのは
「やっ。千年後のパイ、美味しかっただろう?」
開店。
黒ギャルなあたしが異世界で朝食屋やるってマジ? 風来坊セブン @huraibo1201
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