百合営業だって言われても
羽間慧
百合営業だって言われても
大好きだよ。
応援してくれるみんなが大好き!
ライブで何度も繰り返したファンサが、初めて憎いと思った。さっきまで歌えていた喉が、自由に動かない。
ううん。憎いと思うのは、ファンに対してではないよね。私一人が突っ走って、たくさんのファンを傷つけた。私こそが悪だ。メンバーのアカウントにも、誹謗中傷のコメントが届いているかもしれない。尻軽女に言い寄られていませんか。嘘つきセンターがいるグループなんてさっさと脱退してやれ、みたいに。
恋愛禁止を破ったセンターから、ファンは確実に離れていっていた。ライブ中はペンライトを制御しているおかげで、以前との差が分かりにくい。それでもステージから見る限り、
報道の前にチケットを手に入れていたから、最後の現場だと決意して来てくれたのかな。参戦服に私のカラーを入れることがないのは、ほかのファンの目を気にしたせいだろう。
みんな、ごめんね。
『この度、渡会月愛は、
密かに付き合って三年。蒼ちゃんと結婚したい思いは本当だし、二人の指輪用の資金も貯めていた。
百合営業と叩かれることがあっても、蒼ちゃんとバラエティ番組に出るのは楽しかった。二人だけのときには見せないお仕事の顔。その顔を一番近くで見られる優越感に酔いしれた。グループは違えども事務所が同じという理由で、隣の席にしてもらえる恩恵に、あぐらをかいてしまっていた。
『実は、この指輪は仲良しのお揃いリングでした! 私、渡会月愛に結婚の予定はまったくありません! 橋爪蒼ちゃんとは、今後も仲良しの後輩として接していくつもりです!』
私のネタバラシの投稿に届けられたメッセージは、怒りや悲しみが半数を超えていた。
『笑えないよ。月愛ちゃん……』
『おめでたい話題をネタにするなんて、神経がおかしいんじゃない?』
『まっ。エイプリルフールだもんな。誰か、本気で信じてしまった朝の俺を殴ってくれよ』
『同姓婚を本気で認めてもらいたい人の迷惑』
『るなそうで盛り上がっていた奴ら乙。百合営業だって分かるだろ』
『こんなんがセンターやってるとか最悪。箱推しやめようかな』
『とっとと卒業しろよ。周年ライブの前に』
『蒼ちゃん、逃げて。この先輩にセクハラされる前に』
今はまだ、結婚式を挙げる予定がないだけ。彼女でもあり大切な後輩でもある蒼ちゃんとは、引き続き仲良くしていきたい。そういう意味で投稿したはずだった。
喜んでもらえないファンからの返信に、事の重大さを理解した。
私から壊したんだ。蒼ちゃんと結婚する希望を。
おわびの文章を徹夜で考えた翌朝。マンションのポストには、蒼ちゃんに渡していた鍵が入っていた。手書きのカードとともに。
『月愛さん、合鍵はポストに返しました。私から告白しておいてすみません。もう終わりにしましょう。実は、共演した俳優さんからプロポーズされているんです。月愛さんとは一緒になれません』
私なんかより男の人と結婚したらいいのに。蒼ちゃんと過ごしていて、暗い考えがよぎったことは一度や二度ではなかった。
炎上した私が、蒼ちゃんを幸せにできる保証はない。それなら、後輩の結婚に温かい拍手を送る先輩でいたいと思った。
橋爪蒼の電撃結婚の報道から三ヶ月が経つ。蒼ちゃんのアイドル生命を奪ってまでステージに立ち続ける私は、前と同じくらい輝けているのかな。
死にそうな顔をしているのがメンバーに伝わったらしい。MCに指差される。
「もうっ! るなるな、エナジー切れなのぉ~? トーク全然しゃべってくれないじゃん。お腹の調子でも悪い?」
笑いを取ってくれてありがとね。
メンバーが作ってくれたチャンス。うじうじなんかしていられない。
せっかく足を運んでくれたファンのみんなに、全力のファンサを見せてあげる。
お仕事やプライベートで蒼ちゃんに囁いた愛の言葉と比べ、ファンへの思いが足りないことは否めない。
それでも迷いを声に載せたくなかった。
私は不動のセンター。もうファン以外との恋はいらない。この座から引きずり下ろしたいとファンが願っていても、簡単にくれてやるものか。
違和感しかなかった私の表情に、ようやく笑顔が戻ってきた。
百合営業だって言われても 羽間慧 @hazamakei
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