第52話 魔族領境界線

 シャドーを終えたサイナスは、再び椅子に座る。

 本題である『とにかく魔王と勇者をぶつけたらなんとかなるかもしれない大作戦』のための準備と、リュードも使っていた『気力』の習得について話をしようと言う。


「じゃあ、まずは作戦の話からするか。持ってきたリュードさんの封書は読ませてもらった。魔族領に入りたいんだってな?」

「そうですね、魔王のいる深淵の都パーズに行くには、まず魔族領に侵入しないと」

「雑魚なのに?」

「雑魚でも魔王と戦う……っておい、誰が雑魚だ、コラ!」

「貴様!王の前でまた。無礼だぞ!」


 ジャージ姿の男に雑魚呼ばわりされて、咄嗟に怒鳴ってしまう。

 それを見ていたダリウスに、シャル同様、失礼だろと怒られてしまった。

 つい、リュードと絡むカンジが出てしまった。

 そんなことを全く気にしていないサイナスは、「まぁまぁ、落ち着けよ」と、ダリウスをなだめている。


「シエロ。頼むからこの人を怒らせないでくれよ。この王様、かなりヤバいから」


 シャルは俺の態度に苦言をていする。

 自分だってお前呼びしてダリウスに怒られてたクセに。

 わかってるよ、ヤバいヤツだってのは。

 王様なのにジャージだしな。

 あと無駄にシャドーとか始める痛いヤツだし。

 でも、確かに初対面の王様にお前呼びは良くなかったな。

 そこは反省、反省っと。


 2人の考える意味合いは全く違うが、サイナスに対して『ヤバいヤツ』という認識をお互い持つのだった。


「弱いってのはリュードさんが封書に書いてただけだから、後で気力を教える時に直接確かめるとして。魔族領に入る件だよな。うーん、どうしたもんかな」


 魔族領に入るのは難しいことなのだろうか?

 サイナスは腕を組んで、深く考え込む。


「サイナス様。発言よろしいですかな?」


 ダリウスはサイナスの代わりに、説明をしたいと申し出る。


「おう、いいぞ。俺は戦略とか苦手だからな」

「では、失礼します。まず魔族領に入るために必要な手順を話していきましょう」


 フィーネ王国の指揮系統は、サイナスの側近であるダリウスが担っていると言う。

 俺とシャルはダリウスの説明をしっかり聞くことにした。


 人族領と魔族領は、陸続きにはなっているが、その境界線は3つの魔族国と『見えない壁』によって完全に区切られているのである。

 魔族領に入るには、境界線上にある3つの魔族国の内、どれか1つを経由しなければならないし、それ以外の方法は無いと言う。

 3つの国を経由せずに魔族領に入ろうとすると、見えない壁に阻まれ、魔族領に足を踏み入れた瞬間、強制的に人族領のどこかに強制ワープさせられてしまうのだ。

 見えない壁の原理は未だにわかって無くて、そこを抜けて侵入するというのはできないのだ。

 

 魔族領に入るための正規ルートである国とは、エルフ族の国、ラビット族の国、そしてウルフ族の国の3つである。

 その3つのどこかを必ず経由しなければならないのだが、今悩んでいるのは、どの国を経由して、俺たちを侵入させるかである。


「何が難しいんですか? どこかの国を通るだけなら、近くの国で良くないですか?戦うわけでも無いですし」


 最初から素通りするために、少人数で行くって話だったし、悩むことなのか? どこでもいいだろ?


「簡単に言いますが、3つの国はどれを通っても苦労することになるんですよ。下手すると今の戦況を覆す可能性もあるんです」

「そんなに違うんですか?」

「全然違います。シエロ様、ちなみにですが、魔族のことはどれぐらい理解していますか?」


 ダリウスは魔族への理解度を知りたいと言うので、俺は知ってることをとりあえず言ってみる。


「んん、なるほど、そうですか」


 ダリウスは俺の話を聞いて、険しい顔になる。

 ヨヨから聞いた話をそのまま言ったんだけど、ダメだったか?


「リュード様の封書に書いてあった、シエロ様は知識も乏しいというのは本当なのですね。これならサイナス様が行く方が良いと思いますが」

「俺か? 行っていいなら行きたいぞ!でも俺で魔王倒せるかな?」

「今のサリバン様よりも弱いシエロ様が行くと言うなら、サイナス様の方が可能性はあるかと」

「それはそうだけどな、うーん」

「でもダメですからね。あなたは国の王。出ちゃいけませんからね」

「へいへい、何回も言われてるから諦めてるよ」


 サイナスとダリウスはスムーズに俺をけなしてくれる。

 怒っちゃダメ、ここは大人しくスルーしよう、うん。

 でもリュードのヤツ、変なこと書いてやがったな?

 誰が雑魚で知識に乏しいだ!

 間違って無いけど、許せんな、アイツ。

 勝てるかどうかは別にして、やっぱりリュードもシバくヤツリスト入りだな。メモっと。

 てかダリウスもサリバンのこと、サリバン様って言ってたよな?

 国のお偉いさんが城の門番に様って、普通つけないよな。

 何かあるのか? 何者だ、あのお爺さん?


「……わかりました、魔族と人族の関係について話しながら、今後どうするか考えていきましょう」


 ヨヨから聞いてなかった、魔族と人族の詳しい関係性を説明をしてくれる。

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転生した俺YOEEEけど、何故か勇者やってます〜技の習得が運ゲーガチャの鬼畜世界で俺はしぶとく生きていく〜 執筆のゴシ @54540054

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