一筋の光

 誠のいないバス乗り場で立ち尽くす。分かっていたことだけど、気分はどん底だ。

 しかし意気消沈している暇はない。重い体にムチ打ち、近くの電話ボックスに急ぐ。中に入り電話帳を探る。

 あった! 

 絶望の淵に見えた一筋の光。電話帳の間に挟まれている封筒を手に取った。

 簡素な白い封筒。それは誠である自分が持ってきた手紙だ。初めてだ、自分同士が同一のものを共有できたのは。自分同士にかりそめでない繋がりができたのは。

 焦りを抑えて封を開ける。中身は知っている。まず取り出した紙には自署で差出人として、飯田誠という名前と日付が記されている。誠の側で準備して持ってきた紙と完全に同じもの。そしてもう一つ――。

 それを取り出す手は震えていた。それは誠自身、そして――誠の母と誠の父の写った、誠側の家族写真だ。

 涙があふれてきた。見慣れた、変哲のない写真。けどそれを、美久として見れるなんて。




 昨日の大雨が嘘のように、今日の天気は快晴だった。

 風邪は一日学校を休んで横になると大分良くなった。

 夕方に目が覚めた時、真っ先に枕元に置いてあるあの写真を見た。パックに入れたその写真には変わらず誠側の家族が映っている。悪い想像はいくらでも浮かんでいた。だから大事にしていても写真がどこかに消え去ったり、判別できないほどに写真のプリントがはげることなどを危惧して、昨日の夜や誠の一日が終わってからの今日の朝、そして昼食で起こされた直後と繰り返し眺めたけど、今のところそんな兆候はない。少なくとも、物理的なものであれば共有することは出来るみたいだ。

 窓から外を見る。部屋から見える景色は美久の方がいい。誠の家は入り組んだ住宅街にある上にアパートの2階なのに対し、美久の家はマンションの4階にある。多少街の中心部から外れているけど、落ち着いた街並みと表現すればイメージはいいと思う。夕焼け色に染まった落ち着いた街並みの先、目視では不可能だけど駅の方角をしばらく眺めた。


 しばらくするとただいま、と声がした。父が帰ってきたみたいだ。バタバタと足音がした後、ノックして入ってきた父の手には水とゼリーの乗ったお盆があった。

「大丈夫か? 美久」

 そのマスカット味のゼリーは、子供のころ風邪を引いた時にも父が買ってきてくれたものだ。自分が「おいしい」と喜んだからか、食べてすぐに熱が引いたからか、それ以来風邪を引くとそのゼリーを買ってきてくれる。もちろん、そのゼリーに飽きているなんてことは言わないようにしている。

「大丈夫だよ、ありがとう」

 と感謝を伝えると、心配そうな顔だったのが笑顔に変わる。早退して体調の悪い中、悪天候で長時間帰宅できなかった――という風にごまかしている――せいで余計に心配をかけてしまっていたようだ。それにしても……、ベッドの上からの低い目線で見ると父のお腹が前よりも出てるのがよく分かる。


 トイレに行こうと起き上がった時に何となくクローゼットを開けて、昔のあのクマのぬいぐるみを手に取り、その頭に手をやった。このぬいぐるみはあくまでも誠のものと同型なだけ。それとは違い、今回の写真と手紙は本物だ。

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