変身洗濯機

Rotten flower

第1話

僕は何をしたのだろうか。

「なんだこれ。」

酔った勢いで自分は何をしでかしたのかわからない。ただ、リビングルームにある洗濯機らしき白い箱をじっと見ていた。我が家には洗濯機がなけりゃ、買うお金もないはずだ。通帳をそっと見る。店舗で買ったとしてもし口座引落ならぞっとするほどに入っていなかった。

「買ったからには使うしかないか、どれどれ。」

こたつの上にある取扱説明書を見た。

って、身体を入れる……?あまりにも理解不能なことをいう取扱説明書にどこか呆れを出しながら最後まで読み進めることにした。


この洗濯機はあなたを変えます。この洗濯機は自身が中に入って洗濯させる全く新しい機会です。ただし、変身機能があることに十分留意しておいてください。

変身機能とは名のまま、あなたの容姿を変えてくれる機能のことです。もしも、自分の容姿が気に入らない方はぜひお使いください。


子供の頃からずっと気になっていた。一重だったりと抱える多くのコンプレックス。もしかしたらこれは神様がくれた贈り物なのかもしれない。

「トリセツ通りにすれば……」

操作盤を図の表示通りにすると入ってみた。しらがね色に輝く壁に僕は包まれた。音がなって洗濯機が動き始めたことを表す。

僕は刃に包まれた。痛みを少しばかり感じた。痛みを越した先には何もなかった。感覚などという、ものも、なかった。自分が、どうなって、いるか、わからない。

ねぇ、どうなって、僕、いるの。まだ、存在は、あるの、僕という。切れ、細かく、上がっていく。

少し立た世界っていくが成りななくずつ。生きるなってけんだっだ僕っけ、あれ、ってなん。


目を開ける。しらがねの中で目が覚めた。夢のように痛覚は過ぎ去っていった。少しばかり体が軽くなった気がする。

箱を開けると、服を着る。少しばかり服が大きくなったのだろうか。袖が親指の第一関節あたりまで来ている。

脱衣室へ行って鏡を確認する。

「僕じゃない。」

コンプレックスを濾過した僕、とも言えない全く知らない誰かになっていた。

洗濯機の下側を開くと気持ちの悪い粘性のある何かが入っていた。見るだけでも気持ち悪さを感じる。

それをゴミ箱に棄てると偉くなった感覚で僕は家を出た、誰かに見て欲しい、その一心で。


自分が少し大きくなった気分になって、上を見ると、象だとか鯨だとか、そういうものに打ちひしがれた。そういう気分だ。

あぁ、ムカつくムカつくムカつく!いいよな、容姿のいいやつはモテて女と歩いてる。なのに、どうして僕は。

まだだ。まだだ。まだ、僕はこんなもんじゃない。いくらでもガチャができる。

そういうと、また箱に包まれて、自分を切り刻んだ。


一回使うと慣れたものだ。さっきとまた違う「良さ」を持っているイケメンが鏡に写った。そう、そうだよ。僕の理想像。流石、変身洗濯機あいぼう


調子に乗ると損をする。二度あること三度あるように先ほどと同じ経験をした。ナンパしても振られるし、って、ここで止まれば良かった。

ここでまた、使わなければ。人間としての欲を出さなければ良かったと後悔したのはこの後数分後である。

まるで受けたストレスを全部流すように、薬物を乱用するかのように、僕は洗濯ボタンを力強く押した。


痛覚が僕を包む。繰り返すと慣れた痛み、逆に安心感のある。身体を写した目はすっと醜い現実を見えなくしてくれる。


やはり、少しずつ体が縮んでいる気がする。洗濯機能で不純な物質を流してくれているのだろう。鏡をまじまじと見ていると眼の前を蝿が飛んだ。勢いよく振り払うように手を動かす。

手が空を飛んだ。

慌てて手を取ってつけようとしてもつかない。断面はまるでミンチのようだった。

早くなんとかしなければ。

身体を切り刻んだ。

身体を切 刻 だ。

身 を  刻 だ。

身 を    だ。


液状化したなにかがまた、切り刻まれていく。

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