迷い子

異端者

『迷い子』本文

 あの時、どんな表情をすれば良かったのかいまだに分からない。


 サチは今思い出しても、奇妙な女の子だった。

 よく晴れた日に雨が降ることを言い当てたり、誰かが怪我すると知っていたり。

 私、ミユキはそんな彼女と友達だった。

 彼女とは小さな頃、よく一緒に遊んだ。

 彼女と一緒に男の子、シンジとも遊ぶことが多かった。

 彼はある意味男の子らしくないというか、細かいところに気が付く優しい性格で、私は好きだった。

 でも、すぐには言えなかった。彼は彼女のことが好きだと知っていたから。

 ハッキリ聞いた訳ではないが、なんとなく分かっていた。

 そんな夏のある日、彼女は私に向かって言った。

「私は明日死ぬから、ミユキちゃんはシンジのこと頼むね」

 ちょうど彼が居なくて、二人だけで遊んでいた時だった。なんでもないことのように、言われたことを覚えている。

 私はすぐには答えられず、蝉の声だけが響いていた。

 この時、私はどんな表情をすれば良いのか分からなかった。それが、今でも続いている。

 泣けば良かったのか、笑えば良かったのか――答えが見つからなかった。

「そんな悪い冗談、やめて!」

 私はとっさにそう言っていた。

 分かっていた――冗談ではないと。だから、怖かった。


 翌日、彼女は死んだ。

 自宅で眠るように死んでいたそうだ。心不全だと聞いた。事件性はないらしかったが、どうしてそうなったのかは誰も知らなかった。

 私は、彼女から聞いたことを誰にも話さなかった。話しても、誰にも信じてもらえないだろうと思ったから。もちろん、シンジにも。


 それから、二十年の月日が流れた。

 夏のあの日、サチの命日に墓参りに来ていた。

 隣には、夫となったシンジの姿があった。

「早いもんだな……もう二十年か」

 彼が、ぽつりとつぶやいた。

「俺は、サチが好きだった」

 私の目を気にする様子もなく、そう続けた。

「……うん、知ってた」

 私は平然とそう言った。

「そうか……知ってたか」

 彼は墓石に水をかけた。

「うん……あの子、言ってた『私は死ぬから、シンジを頼む』って」

 なぜだろう。今は素直に言えた。

「……確かに、アイツなら分かってたかもな」

 彼は墓石の方を見つめたままそう答えた。

「けれど、それを聞いた時どんな顔をすれば良かったのか、未だに分からない」

 私はふいに泣きたくなった。

「深く考えなくて良かったんじゃないか? ただ、思ったままで……」

 彼は私の方を見てそう言った。

 ああ、そうか。無理に考えなくても良かったんだ。

 ストンと、に落ちる感触があった。

 彼女がどんな反応を望んでいるか、考える必要はなかったんだ。ただ、困惑しても良かったんだ。

 私たちは墓参りを済ますと、その場を後にした。


 私には、あなたのような力はない。だから、また迷うこともあるだろう。でも、見守っていてね、サチ。

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