ズルいファン
鈴鳴さくら
藤田ニコルさん
わたしはアイドルを、表の舞台に立つカリスマだと認識している。
なのでモデルもアイドルという括りに入れている。
わたしの推しは、藤田ニコルさんだ。
彼女を初めて拝見したのは、ニコラというファッション雑誌。オーディションで選ばれ新加入するニコモ(ニコラモデル)のお披露目ページだ。藤田ニコルさんは日本人というにはあまりにも浮き世離れしたお顔の造りをしていた(ハーフだと知り、影響を受けて一時期わたしはハーフになりたがっていた)。ニコッと花が咲いたような、甘い蜜の香りが漂っていそうな笑顔を浮かべていた…わたしと同じ学年の女の子が、だ。日本にもこれほど可愛い同い年が存在していたなんて。藤田ニコルさんはわたしにないもの全部持っていると信じた。世界ってひろーい!と、当時小学生のわたしはソワソワッと嬉しいような友達になりたいような不思議な気持ちが芽生えた。きっとこれは「尊い」という感情で、「自分以外の推しが出来た」という状況だった。
この時点では世界を自分中心にまわしていたわたしは、推すという行動の実態をいまいち理解していなかった。まだまだ1番の推しはわたし自身だった。
藤田ニコルさんのことは暫く忘れていた。
高校生のとき、深イイ話という番組で高校生ギャルモデルが密着されていた。当時わたしは病気がちで毎日高校に通学できる体力がまったくなかったので通信制の高校に週に3日ほど通っていた。本当は高校に毎日通って勉強したり友達作ったり…青春したかった。だから面倒くさいとサボり、やればできる恵まれた状態と環境があるのに青春に参加しない連中を心の底から妬み、のろっていた。
ギャルのイメージは気だるげで、まさしく口癖が「ダルい〜」とかだろうと、ド偏見を持っていた。なので高校生ギャルモデルの学校生活なんてどうせろくでもないに決まってる…と、ケッ!と吐き捨てていた。吐き捨てながらしっかりチャンネルは深イイ話のままにして、テレビ画面を眺めていた。
テロップに「藤田ニコル」と表示されていた。テレビ画面に顔が食い込むくらい凝視した…ギャルの中のギャルといった派手なお化粧に完璧にセットされた金髪…無邪気に笑う姿を見てハッと気づいた。小学生の頃読んでいたニコラに登場していた、一目惚れに近い形で推したあの子だった。
笑顔が益々可愛くなっていて、身体中の血液が炭酸になったかのようなピリピリッとした衝撃が全身を巡った。
テレビ画面の向こうで藤田ニコルさんが笑うたび、茶の間のわたしは嬉しくて仕方ない。
わたしは藤田ニコルさんに2度も沼ってしまったのだ。
それから、藤田ニコルさんのSNSをフォローしてチラチラ確認するようになった。ギャルにも憧れて、毛先だけブリーチして金髪にする裾カラーにもチャレンジした。
しかし胸を張って、藤田ニコルさんが推しだと発信できなかった。ファンは藤田ニコルさんのことをにこるんと愛称で呼んでいる。わたしは人前でにこるんと呼べない。恥ずかしい。
なぜならあまりにも彼女にお金を掛けていない。イベント参加もしないし彼女プロデュースのブランドでなにかを購入したこともない、ファンクラブにすら入会していない。
お金をかけたら最後だと思っているからだ。わたしはお金を遣うのが苦手…というか恐怖心があり、貯金は趣味であり娯楽でありメンタルを保つ儀式なのだ。お金をかけたら藤田ニコルさんへの気持ちがシャボン玉なって割れて消滅してしまうような脅迫観念にかられている。マジで面倒くさい人間だと思う。
こんなファンが他のファンもいる中でファンだと名乗って良いのか?否、静かにしておくべきだ。
わたしは藤田ニコルさんの笑顔がめちゃくちゃ好きで…さらに言うならみんなを照らす、あの光そのものみたいな存在自体に酔っているのだ。テレビや雑誌で活躍している姿を見かけるたび、わたしの心に爽やかで優しい風が吹く。心の中でペンラ振り回してしまう。ただひたすら藤田ニコルさんのこの先の末永い幸せと益々のご活躍をお祈りし、応援しまくる。
わたしはアイドルから恩恵を受けるばかりの、ひっそりと存在するズルいファンである。
ズルいファン 鈴鳴さくら @sakura3dayo
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